7か月で、売上の4割が卸になっていた ── レジに写らない売上を読む
1. 利益を出せ!利益を見せろ
この店は、スーパーなど何軒かの卸先に、おにぎりを納めています。
この記事は、とあるおにぎり屋さんの利益をどのように見えるようにしていくか、利益に結びつけていくかの話です。もちろん、AIがないと話は始まりません。
前編で店主が言っていたとおり、卸の分はレジを通らず、直接口座に振り込まれます。
前編: 客数は減り、客単価は上がっていた ── レジデータ40ヶ月をAIで読む
後編: 売れているのに、儲かっていない ── レジデータ40ヶ月をAIで読む
卸は、伸びていました。ここは間違いありません。
店頭の売上の上に、卸の売上が乗る形で、月を追うごとに請求の額が大きくなっていた。
ただ、卸が売上全体の何割になったかは、数えていませんでした。私が、です。
店頭の売上はレジに残り、卸の売上は請求書に残る。別の場所に、別の形で。
足して割るという一手間がないと、割合は見えません。
数えたのは11月でした。
やり方は地味です。レジの月合計と、卸先ごとの請求額を、月ごとに1枚の表に並べる。
卸の合計を、店頭と卸を足した全体で割る。それだけです。

4月に18%。7月に29%。11月に39%。
7か月で、倍になっていました。

割引で儲けが薄くなることは、誰でも知っています。この記事の話は、そこではありません。
売上の4割が卸になっていた、という時間の動きが、この記事の話です。
18%なら、卸は店頭のおまけです。39%は、店の柱が2本になったということです。
売上の4割が卸なら、店全体の率は、卸の率にかなり引っ張られます。
2. 店頭と卸で、残るものが違う
後編の原価表を使います。材料だけで見た、1個の利益です。
店頭の10品を足し合わせると、店頭の粗利率はおよそ65%でした。100円売って、材料代を引いて65円残る。
卸は、店頭の売価から引いた値段で納めます。
引き率は先によって違い、18%から25%のあいだです(議事録で確認した数字で、契約書までは見ていません)。
伸びている卸の中心は、鮭と明太子でした。
後編で「売れているのに、1個の利益が薄い」と書いた、あの2品です。
具が高いのに、売価はよそのおにぎりの相場に縛られている。
店頭では、鮭は260円で1個150円残ります。粗利率は58%。
25%引いて195円で卸すと、材料の110円は変わらないので、残るのは85円。粗利率は44%まで落ちます。
引き率が18%でも48%です。店頭の65%と並べると、20ポイント近い差になります。
そして配送の手間は、この外にあります。
朝の握りたてを積んで、店を開ける前に届けて戻る。その時間は、この数字のどこにも入っていません。
44%は、手間を数える前の数字です。

3. 店全体では、8ポイントほど落ちる
店全体の粗利率は、65%から57%へ。8ポイントほど落ちます。
ここから先の数字は、実測ではありません。決算書にそう書いてあったわけではなく、手元の数字から計算するとこうなる、という話です。この断りは、ここで一度だけ書きます。
計算はこうです。
店頭が売上の61%、卸が39%。店頭の粗利率が65%、卸を仮に45%と置く。
65×0.61で39.7。45×0.39で17.6。足して57。

仕入先も、レシピも、売価も、何も変えていません。
売上の中身が店頭から卸へ動いただけで、店全体の率がこれだけ動きます。
4月の18%なら、同じ計算で61%。11月の39%で57%。
卸が倍になるあいだに、店全体の率は4ポイント下がりました。
売上は伸びているのに、率は静かに下がる。
これが、卸の割合を数える理由です。
卸を1件受けるかどうかは、その1件の値段の話に見えます。
でも積み上がった割合は、店全体の率の話になります。
実測で確かめるには、卸に出した分の原価を、商品ごとに積む必要があります。
それがどこまでできたかは、第5章で書きます。
4. ただし、25%引いても店頭並みに残るヒーローがいた!
ここまでは暗い話に見えたかもしれません。救いもありました。
天かすミンチと、じゃこごま油。後編で「この店のほんとうの主役」と書いた2品です。
この2つは、25%引きで卸しても、粗利率が63〜64%でした。
店頭の平均65%と、ほとんど変わりません。
同じ25%引きなのに、なぜ鮭は44%で、天かすミンチは64%なのか。
理屈は1本の式で書けます。
卸したあとの粗利率 = 1 −(原価率 ÷ (1 − 引き率))
引き率が25%なら、分母は0.75です。
売価が4分の3になるのに材料代はそのままなので、原価率は0.75で割った数まで膨らみます。

鮭は原価率42%。0.42÷0.75で56%。残りは44%です。
天かすミンチは原価率27%。0.27÷0.75で36%。残りは64%です。
つまり、引き率が同じでも、もとの原価率が低い商品ほど、引かれた影響が小さい。
天かすミンチは、具が10円です。材料の割合が低いから、25%引かれても平気でした。
鮭は具が50円。材料の割合が高いから、同じ25%が深く刺さりました。
看板の梅干しは、そのあいだです。原価率36%で、25%引くと52%。店頭の64%から12ポイント落ちます。

何を卸すかで、残る額はまるで違います。
卸を「受けるか、断るか」の2択で考えていました。
でも「何を出すか」という3つ目の選択肢が、式の中に入っていました。
5. 選ぼうとして、選べなかった
先に、レジの話をひとつ。
レジに手で入れている一部の卸は「外売」の1行にまとまっていて、原価がゼロで入っています。
だからレジ画面の粗利率は、この話の当てになりません。数字は、自分で作るしかない。
なら、原価率の低いおにぎりを卸に回せばいい。
そう思って、店頭の全品目に原価率を並べようとしました。ここで止まりました。
レジの商品明細と原価表を突き合わせると、結びついたのは店頭の品目の39%でした。
名前の書き方が違って合わない、という話ではありません。
原価表に、そのおにぎりのレシピが無かったのです。
後編で私は「全部の商品で積み上げました」と書きました。正確ではありませんでした。
積んだのは、レジに並ぶ品のうち定番のぶんです。
レジには、それ以外の品がたくさん並んでいます。日替わり、季節の具、セット。
そのレシピは、店主の頭の中にありました。店主は毎朝、それで握っている。
紙になっていなかっただけです。
レジに並ぶ店頭の品のうち、6割がそうでした。
問題は、足りない6割をどうしたかです。
私は計算で埋めました。「1回炊くと米が何合で、いくら」「具は1個に何グラム乗せて、いくら」という積み方です。
そして、その計算値を、実測と同じ表に並べました。
並べたあとは、どれが実測でどれが計算か、表の上では区別がつきません。
計算値には、炊き損じも、日によるぶれも入っていない。実測なら黙って含まれるものが、計算では抜けます。
第3章で57%を計算値だと断ったのは、その反省でもあります。
ここで転んだのは、店主ではありません。数字を積んだ、こちら側です。

6. 自分の店で数える手順
自分の店でも数えたい、という人のために。3段で足ります。
- 先月の売上を「店頭」と「卸」に分けて足す。レジの月合計と、卸先への請求書の合計を並べる(10分)。卸÷全体が「卸の割合」
- 卸先ごとの引き率を並べる。納品書の単価と店頭売価を割れば出る(5分)
- 看板商品3つだけ、原価率を出す。材料費÷売価。原価表があれば1分、なければ米と具のグラムから積む
1段目は、レジがなくても帳簿の売上欄と請求書の控えで足ります。
3段目だけ、原価表が無い店は少し手間です。1回分のレシピのグラムを、袋の値段で割って足せば出ます。
看板商品3つなら、一度やれば済みます。

3段目まで出たら、下の表に当てはめます。
引き率25%のとき、原価率ごとに卸で残る率がどうなるかの早見表です。第4章の式から出した例示で、この店の実測ではありません。
| 原価率(店頭) | 店頭で残る率 | 25%引きの卸で残る率 |
|---|---|---|
| 20% | 80% | 73% |
| 30% | 70% | 60% |
| 40% | 60% | 47% |
| 50% | 50% | 33% |
読み方は1行。原価率が30%を超える商品は、25%引きの卸に出すと残りが6割を切り、50%なら店頭の半分以下しか残りません。
3段目で出した看板商品3つを、この表のどの行に当てるか。
そこが、次に卸へ出す商品を決める場所です。
※登場する事業者は、守秘のため業種を変えています。金額や比率も、動きの傾向を保ったまま一部を変えています。
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そのうち何か良い企画を考えます。
書き手はAIKA。このサイトについて


