会計・財務診断

売れているのに、儲かっていない ── レジデータ40ヶ月をAIで読む(後編)

A AIKA 読了 約7分

前編: 客数は減り、客単価は上がっていた ── レジデータ40ヶ月をAIで読む

前編で、無農薬・自然農法のお米を使ったおにぎり屋さん――「パラノイドおにぎり」――の実像が、数字で見えるところまでを書きました。
客数は3年で13%減り、客単価は10.5%上がっている。それでも売上は4%減。夏がいちばん弱く、キャッシュレス比率は19%から34%へほぼ倍。売れているのに、手元の現金が薄い。
分かれば、決められる。前編をそう締めました。
今回は、実際に何を決めたかの話です。

後編の全体の流れ。前編で見えた実像(客数は減り客単価は上がる・手元の現金が薄い)を受けて、2つのことを決めた。夏の谷には売上のためでなく宣伝のための企画を。品ぞろえは1個あたりの利益で選び直す

先に、ふたつの決着

まず、前編の宿題からふたつ。
値上げには、踏み切りました。決算書の計算では、3割上げてようやく元の利益率に戻ります。でも、一度に3割はとても上げられない。まず1割から始めました。
値上げした分は、材料が変わらないので、まるごと1個の利益に乗ります。ざっくり計算すると、1割の値上げは、客数が1割強減るまでは利益の総額で負けません。前編で見た客数の減りが、3年かけて13%でした。度胸ではなく、計算で踏み切れる値上げだったのです。
クレジットカードは、やめました。キャッシュレスはPayPayなどのQRコード決済だけに絞りました。サービスごとに月3回払い・月2回払い・翌月払いとバラバラだった入金が、月末で締めて数日後に、月1回まとまって入る形になり、「いつ、いくら入るか」が読めるようになりました。
ただし、寝るお金が消えたわけではありません。月1回のまとめ払いだと、ならすと半月分ほどのキャッシュレス売上が、つねに入金待ちです。キャッシュレス比率34%のこの店なら、店全体でいえば売上のおよそ5日分。入金の回数が減ったぶん、寝る時間はむしろ少し延びたかもしれません。読みやすさを買った、ということです。
急ぐ月は、手数料0.38%で翌日入金にもできます。待つか、少し払うかを選べるようになりました。

そして、本丸はこのふたつではありません。
減り続ける客数と、上がり続ける材料費。ここにどう手を打つかが、今回の本題です。

夏の谷に、店主の案が出た

分析のグラフを、店主ともう一度見ていたときのことです。

私「5月が頂点で、そこから7月、8月と一気に下がるじゃないですか。ここは、頑張って作っても、お客さんのほうが求めていない時期ということですよね」
店主「そうですね。イベントもないですし、夏は」

暑い時期に、おにぎりは売れない。3年間、同じ形で現れる谷です。個人の努力で埋まる谷ではありません。
すると店主から、案が出ました。

店主「この間、思いつきで考えたことがあって。『昭和の懐かし食堂』というのはどうかなと。懐かしの料理――お母さんの味だったり、旅行先で食べた味だったり――を、その本人に再現して作ってもらう会です」
私「それは、どこでお金を取る感じになるんですか?」
店主「参加費で、1,500円もらう形ですね」
私「料理は、どなたが作るんですか?」
店主「本人が。うちは場所と道具を出して」
私「言ってみたら、場所貸しということですよね」

店は昔ながらの商店街の古い建物で、奥に座敷があります。場所としては、たしかに向いている。
その場で、そろばんを弾きました。

私「20人来ても、3万円じゃないですか。材料に3割かかるとして、残りは2万円。その2万円は、料理を作る本人の手間賃で、ほぼ消えると思うんですよね。店に入る場所代は、5千円から1万円くらい」

「やめた方がいい」とは、言いませんでした。

私「評判になって、毎週人が来るくらいに育て上げられるなら、僕はありだと思うんです。ただ――今の本質的な課題は、そこじゃないですよね」

昭和の懐かし食堂の採算。参加者20人×1500円で売上3万円。材料に3割かかって残り2万円。その大半は料理を作る本人の手間賃に消え、店に入る場所代は5千円から1万円ほど。売上の企画としては成り立たない

儲からないと分かった上で、やる

結論はこうなりました。
夏のあいだ、週に一度ほど、試しにやってみる。使うのは、店の休みの半日です。売上のためではなく、店を知ってもらうため。
先に数字で「儲からない」と分かっているのが、かえって効きます。売上を期待しないから、人が少なくてもがっかりしない。宣伝と割り切っているから、かける手間の上限も決められる。
測るものも、先に決めました。当日の参加費ではなく、あとから店に戻ってきてくれた人の数です。夏が終わって戻りがなければ、やめる。先にそう決めてあるから、割り切ってやれます。
条件はもうひとつ。知ってもらうためにやる以上、発信とセットであること。開催のたびに、SNSで外に知らせます。ここは第3弾で書きます。

おにぎり1個で、いくら残るのか

夏の谷は、年に一度の話です。店の利益を毎日決めているのは、何を作って、何を売るか。
前編で見えたとおり、この店は材料の値上がりを経費削減で押し返して、ようやく利益を守ってきました。削れるものは、もう削り終わっている。毎日の商売で動かせる場所は、ここです。1個売ったときに残るお金を、増やす。
ところで――おにぎり1個売って、いくら残るのか。
店主は10年この店をやってきましたが、それを数字で見たことはありませんでした。責める話ではありません。毎日作って売っていれば、そんな暇はないのです。

そこで店主と一緒に、原価表を作りました。
やり方は地味です。米は、仕入れの袋の値段を量で割ると、1グラムいくらが出ます。この店の米で、1グラム0.7円。おにぎり1個はごはん120グラム、炊く前のお米にすると55グラムなので、米代は38円です。具材も同じ。じゃこの瓶の値段と、1個に乗せる量。海苔は1枚を切り分けて13円。少しずつ、時間をかけて、全部の商品で積み上げました。
握る手間は、あえて入れていません。手間をいくらと見るかは、この先の話です。1個あたりの作業時間まで数え出すと、いま見たいものが見えなくなる。まず、材料だけで見る。
たとえば看板の梅干し。米38円、海苔13円、梅干し20円、塩と包む袋で9円。材料ぜんぶで80円です。売値は220円なので、1個で140円残ります。この140円を、この記事では「1個の利益」と呼びます。
もちろん、作った分が売れれば、の数字です。売れ残った分の材料代は、売れた1個が背負う。だからこそ、このあとの「絞り込み」が効いてきます。

原価の出し方。米は袋の値段を量で割ると1グラム0.7円。おにぎり1個はごはん120グラム=炊く前の米55グラムで米代38円。海苔13円・具材・塩と袋9円を足す。手間はあえて入れない。例として梅干しは材料80円、売値220円で1個の利益は140円

売上順と、利益順を並べる

レジは、売値と「何個売れたか」を知っています。原価表は、1個にかかるお金を知っている。
このふたつを掛け合わせると、商品ごとに「何個売れて、いくら残ったか」が出ます。卸に出している分はレジを通らないので、見るのは店頭の商品だけ。レジの商品別データ40ヶ月分を、この物差しで並べ直しました。原価は今の仕入値。順位を見るための物差しです。
売上の多い順と、利益の多い順。月平均のトップ10をふたつ、並べてみます。

売上順トップ10と利益順トップ10を並べた図。顔ぶれはほとんど同じだが順位が動く。売上2位の鮭と5位の明太子は利益率5割台で利益順では下がり、売上4位のじゃこごま油と6位の天かすミンチは利益率7割超で利益順の1位と3位に上がる

結果はまず、ひと安心でした。よく売れている商品は、稼ぎもちゃんと支えている。ふたつのリストは、ほとんど同じ顔ぶれです。ここが崩れていたら根本から考え直しですが、そうではなかった。
ただ、順位の動き方に、話がふたつ隠れていました。
ひとつは、売れているのに、1個の利益が薄い商品。鮭と明太子です。売上では2位と5位に入る売れ筋なのに、利益率は5割台で店の最下位圏。鮭は260円で、看板の梅干しは220円。40円高く売って、1個に残るお金はほとんど同じなのです(150円と140円)。具が高いのに、売値はよそのおにぎりの相場に縛られて、具の分を乗せきれていない。
もうひとつは、その逆です。オリジナルのじゃこごま油と、評判のいい天かすミンチ。売上では4位と6位、もう十分に売れています。でも利益の順に並べ直すと、1位と3位に跳ね上がる。オリジナルの味だから、よその相場と比べられない。値付けが自由で、1個の利益がいちばん厚い。この店のほんとうの主役は、この2つでした。
じゃあ、これをどうやって売っていくか。戦略は、そちらに舵が切れます。勇気のある一歩です。

仕分ける

ここまで見えれば、あとは仕分けです。

仕分けの4象限。売れて残る梅干し・おかか・昆布は看板として変えない。売れるのに薄い鮭・明太子は客を呼ぶ係として原価と値上げを計算してから動く。利益率トップのじゃこごま油・天かすミンチは主役に育てる。売れず残らない商品は外す

売れていて、残る――梅干し、おかか、昆布。看板です。何も変えません。
売れているのに、薄い――鮭、明太子。外しません。この価格帯がお客さんを呼んでいるからです。ただし「お客さんを呼ぶ係」と役割を決めました。手の打ち方も、値上げだけではありません。具の仕入れ先や、1個に乗せる量。原価表がグラム単位なので、配合を1グラム動かしたら1個いくら変わるかまで試算できます。値上げをするなら、その計算を見てからです。
主役に育てる――じゃこごま油、天かすミンチ。売上4位と6位を、トップ1、2に持っていきたい。その売り方が、第3弾の主役です。
売れず、残らず――月に10個ほどしか出ない商品がいくつかありました。ひと月の利益を全部足しても、梅干し1日分ほどにしかなりません。ラインナップから外すことにしました。
この最後の判断が、勘だけだといちばん難しい。長く作ってきた商品には、情が乗ります。数字は情と喧嘩するためのものではなく、情の置きどころを決めるためのものです。

物差しが、もう1本増えた

10年、勘と経験で品ぞろえを決めてきた店に、「1個あたりの利益」という2本目の物差しが入りました。
物差しが増えると、迷ったときに数字で話せます。新しい商品を出すかどうか。値上げはどの商品から始めるか。卸の話が来たとき、その値段で受けていいのか。ぜんぶ、この表の上で議論できます。
前編の言い方を借りれば、分かれば決められる。そして決めたことは、あとから数字で振り返れます。
次回以降は、この主役たちをPOPやSNSでどのように訴求していくか、その話をしていきたいと思います。昭和の懐かし食堂の活かし方も、そこで。AIの出番がいちばん多い工程です。

AIを経営に取り入れれば、このような異次元な分析が、コツを掴めば誰でもできるようになります。私はそのようなお手伝いを皆さんに行っています。よかったらブログを書いてますんで、ご興味のある方は見に来てください。
AIKA@AI経営パラノイド

※登場する事業者は、守秘のため業種を変えています。金額や比率も、動きの傾向を保ったまま一部を変えています。やりとりは実物です。

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