会計・財務診断

客数は減り、客単価は上がっていた ── レジデータ40ヶ月をAIで読む(前編)

A AIKA 読了 約7分

第1話: 紙の決算書をAIに食べさせる ── 81円のズレも捕まえながら
第2話: 合計が合っていても、信用しない

第1話と第2話で、紙の決算書をAIでデータにした話を書きました。
無農薬・自然農法のお米を使ったおにぎり屋さん――仮に「パラノイドおにぎり」――の決算書3期分を、読み取って、検算して、数式入りのExcelにした話です。

データにするのが目的ではありません。データにして、分析に使うのが目的です。
今回はその続きの話です。データになった決算書から何が見えたのか。
そして、決算書だけでは見えないものを、お店のレジのデータでどう埋めたのか。

全体の流れ。決算書とレジデータをAIで突き合わせて分析すると店の実像が数字で見え、次の一手を決められる

決算書から見えたこと

3期分を並べたExcelを眺めると、この店の3年間が1枚で見えます。

1年のもうけは、660万円ほど。
決算書でいう「青色申告特別控除前の所得」です。個人事業なので、会社の利益とは意味が少し違います。ここから店主の生活費も、所得税も、国民健康保険も出ていく。店のもうけであると同時に、店主の年収でもある数字です。
少しずつですが、増えています。数字の並びだけ見れば、悪い流れではありません。

ただ、増え方の中身が問題でした。
売上が伸びてもうけが増えたのではありません。仕入れ以外の経費を3年で3割削って、もうけを作っていました。
毎年毎年、削りに削っている。裏を返せば、努力で削れるものはもう削り終わっていて、この先同じ手は使えないということです。

しかも、削った分がまるまる、もうけになったわけでもありません。
材料の値上がりで、売上に対する仕入れの比率は年々上がっている。上がる原価を経費削減で押し返して、ようやく微増を保っている。そういう均衡でした。

もうひとつ、気になることがありました。手元のお金が薄いのです。
もうけは出ているのに、現金が残っていない。
理由のひとつは、入金のタイミングでした。キャッシュレスで売れた分は、その場では現金になりません。しかも決済サービスごとに月3回払い・月2回払い・翌月払いと入金日がバラバラで、どれかが特別に遅いというより、いつ、どこから、いくら入るのかを追いきれない。売上は立っているのに、通帳の残高が読めない状態でした。

決算書から見えた3つのこと。1年のもうけは660万円ほどで微増(ただし仕入れ以外の経費を3年で3割削って作ったもうけ)・手元の現金が薄い・キャッシュレスの入金日が読めず資金繰りを圧迫

決算書には、「買い方」が写らない

ここまでは決算書で分かります。
決算書にも、月ごとの売上を書く欄はあります。ただしそこにあるのは、売上と仕入の金額だけです。
何人来たのか。1人がいくら使ったのか。現金で払ったのか、キャッシュレスだったのか。
「いくら売れたか」は書いてあっても、「誰が、どう買ったか」はどこにも書いてありません。

店主には、気になっていることがありました。

「客数は一旦は減りましたね。多い時に比べると減ったんですよ。やっぱり。で、客単価が上がってるのは濃ゆく、濃くなってるので、ちょっとまずいなと思ってるので、なんとかその客数を増やさないといけない」

客数が減っている気がする。夏は特に売れていない気がする。
「気がする」は、仮説です。仮説は、実際の売上データで確かめられます。

ここでレジの出番です。この店はAirレジを使っていました。
店頭の売上は、1回の会計ごとに全部この中に入っています。売上、会計数、客数、客単価、現金で払われた額、それ以外で払われた額。
月ごとの集計をCSVファイルで書き出してもらうと、2023年からの約40ヶ月分がそろいました。

決算書が「金額の記録」だとすると、レジのデータは「買い方の記録」です。
この2つを突き合わせると、決算書だけでは見えなかった店の動きが見えてきます。

決算書とレジデータの違い。決算書=金額の記録(月別の売上・仕入はあるが金額だけ)。レジデータ=買い方の記録(客数・客単価・支払い方法が月ごと×約40ヶ月)。突き合わせると店の実像が見える

相談の場で、その場で分析する

ここからが、この日の本番です。
相談の場で、送ってもらったCSVをその場でClaudeに渡し、店主と一緒に画面を見ながら分析しました。以下は、そのときの実際のやりとりです。

まず、データを分析してレポートにするよう頼みます。

「一応売上の分析をちょっとしてみた感じ見ますね。(中略)それをマークダウンファイルでレポートにしてください」

レポートができるのを待つ間に、数字を眺めていて、ひとつ引っかかりました。

私「(中略)四年分を見た限り、あれはなんか売上がズレとるな。なんでですかね。エアレジを通さん売上があるってことですかね」
店主「はい。みんなレジには入れます。あ、ただ、えっと、卸してる先の分は入ってないです」「あの、スーパーとかの分はエアレジには入らなくて、直接銀行に振り込まれるので」

レジの売上と決算書の売上が合わない。答えは店主が持っていました。卸売の分はレジを通らない。
データのズレは、疑って聞けばその場で解けます。これも突き合わせの効用です。

次に、客数と客単価。店主の「気がする」を、数字で確かめます。

私「客単価はちょっとずつ上がってますね。(中略)上がってるけど人数が減ってますでしょ」
店主「はい、減ってますね」
私「で、客数と客単価がやっぱ客数は減って客単価が上がっとる感じですね」「短期的にはあまり良くないですよね。そのお客さんがなくなってしまったら、今度はこっちが下がってくるから。まあまずいなと思います」

そして、支払い方法の内訳を見たときです。

私「(中略)三年で二倍ですって」
店主「ああ」
私「手元資金がまあない」

売上のうちキャッシュレスで払われる割合が、この3年で大きく伸びていました。
1件ごとの入金が遅くなったのではありません。いつも入金待ちで寝ているお金が、厚くなったということです。
決算書で見えていた「手元のお金が薄い」の、理由のひとつがレジのデータとつながった瞬間です。

店主の実感も、同じところにありました。

「うーん、もう本当に足りない状態です。なんか仕組みがおかしくないのかと思いましたけど」

仕組みは、おかしくありませんでした。
個人事業のもうけは、店のもうけであると同時に、店主の生活費でもあります。そこから税金も保険料も出ていく。決算書のもうけには現れないお金が、毎月確実に外へ出ていく。そこへ、売れたのにまだ入っていないお金が、じわじわ積み上がっていた。
売れているのに現金がない。おかしいのではなく、そういう構造だったというだけです。

数字で見えた、店の実像

分析結果を整理すると、この店の実像はこうでした。

①客数は、2023年と2025年を比べると13%減っている。しかも減るペースは、後半のほうが速い。
②客単価は同じ期間で10.5%上がっている。少しずつの値上げの効果とみられます。
③ただし、**値上げでは客数の減少を埋めきれていません。**売上は3年で4%ほど減りました。客単価を上げるスピードより、客数が減るスピードのほうが速いのです。
④売上には季節の波があり、夏場がいちばん弱い。3年とも、真夏に谷が現れていました(去年の8月だけは、少し持ち直しています)。
⑤キャッシュレス比率は、3年前は19%ほどだったのが、直近の3ヶ月では34%。ほぼ倍です。すぐには現金にならない売上が、それだけ増えています。

レジデータで見えた店の実像。客数=2023年から2025年で13%減・客単価=同期間で10.5%上昇(それでも売上は4%減)・夏場が例年最も弱い・キャッシュレス比率=3年前の19%が直近は34%

客単価は上がり、客数は減っている。2023年を100とした指数の折れ線グラフ。客単価は110.5へ上昇、客数は87.0へ減少

ひとことで言えば、こういう店です。
値上げと経費削減で、もうけをきっちり守ってきた。コストの管理は真面目そのものです。
でもその足元で、お客さんは静かに減り続けていて、売れたお金はすぐには手元に入らなくなっている。

決算書は、「まずいことが起きている」までは教えてくれます。もうけの増え方の不自然さも、現金の薄さも、決算書だけで見えました。
でも、「なぜ」までは教えてくれません。
客数なのか、客単価なのか。季節なのか。支払い方法なのか。
レジのデータと突き合わせて、はじめて「なぜ」が数字で見えました。

グラフを見た店主の言葉が残っています。

「めっちゃすごいですね、これ。普通こんな感じにはならないですかね」

すごいのはAIではなく、毎日レジを打ち続けた店主です。40ヶ月分の記録が最初からそこにあって、私たちはそれを読んだだけなので。

分かれば、決められる

ここまでが「分かった」の話です。前編はここで終わりますが、大事なのはこの先です。

実像が見える前、打てる手は「がんばって売る」「がんばって削る」しかありませんでした。
そして削る方は、もう限界まで来ていました。

実像が見えると、手が具体的になります。
どれも「数字で見えている問題」なので、対策を選べて、効いたかどうかも後から数字で確かめられます。

もしあなたの店や会社にもPOSレジがあるなら、同じ材料はもう手元にたまっています。あとは決算書と突き合わせるだけです。

実際、この店はこのあと、いくつかのことを決めました。
値上げに踏み切るかどうか。手元のキャッシュをどう確保していくか。クレジットカードを続けるかどうか。減ってきたお客さんをどうやって回復させ、利益をどう確保していくか。
続編では、このような会計にもとづいた意思決定を行っていく、実際の現場の話をします。

AIを経営に取り入れれば、このような異次元な分析が、コツを掴めば誰でもできるようになります。私はそのようなお手伝いを皆さんに行っています。よかったらブログを書いてますんで、ご興味のある方は見に来てください。
AIKA@AI経営パラノイド

※登場する事業者は、守秘のため業種を変えています。金額や比率も、動きの傾向を保ったまま一部を変えています。やりとりは実物です。

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