AIとの付き合い方

AIは覚えていてくれる、と思っていませんか——消えた3か月前の会話と、残った議事録

A AIKA 読了 約5分
AIは覚えていてくれる、と思っていませんか——消えた3か月前の会話と、残った議事録

左に薄く消えかけたAIの記録の棚、右にくっきり残った議事録の棚。AIの記憶は消える、議事録は残る

AIとの3月の会話を、探したことがあります。

手元にあるAIとの会話の記録は、下請けの作業分まで含めて5,455冊(7月末時点)。機械で、全部を調べました。

3月分——ゼロ。1件も、残っていませんでした。

AIの記憶は、静かに消えます。

でも、仕事は何も困りませんでした。

同じ3月の議事録が、2本、残っていたからです。

前回は、録音1本がひと月働いた話でした。今日はその続き——録って、全文を残して、貯めていくと何が起きるかの話です。

(この連載では、会話が一言一句そのまま残っている記録を「原典」と呼び、それを消さずに残して、あとから働かせる工夫のことを、勝手に「原典工学」と呼んでいます。今日は、貯めた原典の話です。)

貯め方は、前回の3つだけ

新しい道具は要りません。前回の持ち帰り——断って録る。全文を捨てない。名札を付ける——を、会議のたびに続けるだけです。

続けると、議事録は1本の記録から、帳簿になります。

録る・全文・名札の3ステップを会議のたびに繰り返すと、ファイルが積み重なって帳簿になる絵

私の手元の一例だと、ある事業者との議事録は7本。録音を足し合わせると約5時間半、文字起こしで約12万字になります。

帳簿になると、まず、質問ができるようになります。半年分の議事録81件に「土地が出た会議はどんな内容でしたか」と聞くと、0.05秒で答えが返ってくる——この話は連載の外で、先に書きました

今日はその先です。貯めた議事録は、質問に答えるだけではありませんでした。

3つの向きに、効いた

さっきの7本・約12万字の帳簿が、実際にどう働いたか。以前の記事に詳しく書いたので、ここでは骨だけ引きます。

打合せの日には、AIのやることリストになった。たまった分は、前の仕事の答え合わせになった。そして4か月前の1本は、言葉のまま、次の仕事の材料になった。

1冊の帳簿から3方向の矢印。前へ=やることリスト、後ろへ=答え合わせ、時間を超えて=4か月前の言葉

打合せが終わったその日に、議事録から優先度つきの作業リストができる。貯まった分を読み返すと、過去の分析の誤りが見つかって直せる。そして4か月あまり前の議事録の言葉が、そのまま、新しい記事の材料になる。

前へ、後ろへ、時間を超えて。3つの向きです。

ただ、この帳簿には、4つ目の効き方がありました。

それが今日の本題です。

AIの記憶は、消えていた

7月の終わり、その事業者の3月の相談を振り返る作業をしていて、ふと、当時のAIとの会話を読み返そうとしました。

無いのです。

記録5,455冊を走査した棚の絵。3月のところだけ棚が空で0件

さっきの数字がこの時のものです。AIとの会話の記録5,455冊(下請けの作業分まで含めた全部)を機械で走査して、2026年3月の会話は0件。当時の設定では古い記録が自動で消える仕組みになっていて、気づいたときには、跡形もありませんでした。

ひとつだけ、残っているものがありました。

私が打った言葉だけの履歴です。AIの答えは消えても、こちらの入力の一覧は別の場所に残っていて、3月分を数えると25件ありました。

消えたのはAIの答え。私の問いだけが、残っていた。

会話の吹き出し。私の問いは残り、AIの答えだけが薄く消えている

3月に、AIと何を組み立てたのか。どんな分析をして、どんな選択肢を捨てたのか。AIの側の言葉は、もう取り出せません。

——それでも、仕事は困りませんでした。

同じ3月の議事録が2本、私のフォルダに、ファイルとして残っていたからです。人と交わした言葉の全文。それは AIの保存の仕組みとは無関係に、自分の置き場にあります。

7月の終わりに書いた記事の中心の章は、その4か月あまり前の議事録の言葉から書けました。AIの記憶が消えても、原典が手元に残っていれば、仕事は続く。

貯めた議事録の4つ目の効き方は、保険でした。

白状すると、この連載の第1話で「まず会話の保存期間を延ばしてください」と書いたのは、この消滅を見つけたです。消えてから、設定を直しました。だからあの1行だけは、誰よりも本気で書いています。

AIの中の記録は消えるか選べない。自分のフォルダの議事録は消さない限り残る、の対比

いちばん新しい1本——会議の議事録が、仕事の出発点になった

貯めた議事録は、古い仕事を守るだけではありません。いま進んでいる仕事でも、いちばん働いているのは議事録です。最近の1本を、少しだけ。

ある製造業の会社さんとの、1時間弱の面談。録音して、全文を残しました。

その会議で、頼まれごとの主軸が変わりました。後日、AIが議事録の全文と、会議室のホワイトボードの写真を読み、その転回を正確に掴んだうえで、板書に書かれていた値決めの表——時間あたりの単価が機械ごとに決まっている——が、この仕事の心臓部だと見抜きました。そして社長が口にした「材料費で損しないように」という一言を、決算の数字と突き合わせて、勘ではなく原価の構造から出てくる言葉だと裏付けました。

1本の議事録(会議1時間弱・全文)から、設計・検証・次の面談へと仕事が立ち上がる絵

いまそのプロジェクトで作られている物は、全部この議事録1本から始まっています。会議の言葉が、そのまま設計の土台になる——前回書いた計画書の話と、同じことが、また起きています。

持ち帰り——自分の場所に、置く

今日の持ち帰りは2つです。

  1. 貯めるのに、新しいことは要りません。 前回の3つ(断って録る・全文を捨てない・名札を付ける)を、続けるだけ。置き場を1か所に決めてあれば、それはもう帳簿です
  2. AIの中の記録は、自分の物ではありません。 保存の仕組みも、消えるタイミングも、こちらでは選べないことがあります。大事な話は、議事録の形にして、自分のフォルダに置いてください。ファイルは、あなたが消さない限り消えません

持ち帰りの2枚看板。続けるだけ(録る・全文・名札)と、自分の場所に置く

会議が、なくても

ここまで、会議の話をしてきました。録る、全文を残す、貯める。

でも実は——会議すら、要らないんです。

相手がいなくても、ひとりで喋った30分が、翌日の仕事になります。この連載自体、そうやって生まれました。

次回は、ひとり語りの話です。

会議テーブルが薄くなり、ひとりで歩きながらスマホに話しかける人が浮かび上がる。会議すら要らない


この記事は連載「AIの原典工学」の第7話です。

※登場する事業者は、守秘のため業種を変えています。数字は丸めていますが、やりとりと工程は実物です。

付録: 「消える前」にやっておく2つの設定(このブログにだけ)

  1. AIの会話の保存期間を確かめる。 お使いのAIに「会話の記録はどこに、いつまで残りますか」と聞いてください。手元にファイルが残る型のAIなら、保存期間の設定を延ばす手順は第1話の最後のコラムに書きました
  2. 議事録は、AIの外に置く。 文字起こしの道具の中やAIのチャット画面の中を保管場所にしない。全文をテキストファイルにして、自分のパソコンの決めたフォルダへ。月に1度、「先月の議事録は全部ここにあるか」と数えるだけで、消滅には気づけます

この2つは、どちらも10分で終わります。そして、消えてからでは、どちらも間に合いません。

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