AIに記憶をつくる——残すだけでは、取り出せない

AIとの会話は、一言一句そのまま手元に残せます。ただ、残しただけでは、翌日のAIはそこから何ひとつ取り出せません。
今日は、残した会話の記録——JSONLという名前のファイルです——を、AIが引ける記憶に変える話をします。工夫は3つ。どれも、AIに一言頼むだけです。
前回の終わりに、白状したまま預けた話があります。「JSONLに当たって」の一言がいつでもすっと効くようにするには、裏側に少し仕組みが要る——実はそこがミソなのだ、と書きました。今日は、そのミソを開けます。
順番として、使い方の話を先にする約束でした。ただ、書き始めてみて気づきました。裏側を先に見てもらうほうが、結局早い。頼み方の型は、次回まるごと1本でやります。今日は、その頼み方が「すっと効く」状態を作る話です。
(今日もClaude Codeのような、パソコンに入れて使うタイプのAIの話です。ただ、考え方自体はメモアプリと手帳でもできる話なので、そのつもりで読んでもらっても成立します。)
「残っている」と「取り出せる」は別の問題

第1話で「まず残す」と言いました。会話の記録は、放っておくと消えるからです。Claude Codeの初期設定ではおよそ30日で、古い会話から順に静かに消えていきます。私は保存期間を180日に延ばし、それより古い分は別のハードディスクに退避するようにしています。やり方は、AIに「会話ログの保存期間を180日に延ばして」と頼むだけです(手順は第1話の最後のコラムに書きました)。
第2話では、その残る場所と、正体の話をしました。正体の名前がJSONL(ジェイソンエル)です。「1つの出来事=1行」で書き足されていく、帳簿のようなものだと思ってください。あなたが何か言えば1行、AIが答えれば1行。要約ではなく発言の全文がそのまま入っていて、人間にはほぼ読めない代わりに、AIはすらすら読めます。置き場所はパソコンの奥ですが、あなたが探しに行く必要はありません。AIは自分の帳簿の置き場所を知っています(第2話)。
今日は、その先の話です。
私の環境には、この会話の帳簿(JSONL)が1,300冊を超えて積もっています。残す設定にした日から、黙って増え続けています。
ところが、残しただけでは、翌日のAIはそこから何も取り出せません。図書館に本を積み上げただけの状態だからです。しかも前回書いたとおり、この本には題名がありません。表紙にあるのは機械が付けた識別番号だけ。前回「4つの扉」の2枚目に挙げた、探す扉です。
千冊の、題名のない本。この山が、そのままでは記録であって、記憶ではない。
取り出せて、初めて記憶です。私がやっている工夫は、この山を「AIが取り出せる形」に変える工夫です。
この連載の第1話は、5分3秒の動画にもしてあります。まず消さない、という土台の話です。設定がまだの方は、先にこちらを。
AIとの会話は、30日で消える ── もったいない。JSONLを残せ(5分3秒)
工夫その1——消さない
1つ目は、さっき書いた保存期間の話がそれです。土台なので1番に数えますが、やることは「延ばして」と一言頼むだけで、話はそこで終わっています。
まだの方は、今日はここだけで十分です。掘り方も取り出し方も、残ってさえいれば後から学べます。逆は無理です。
工夫その2——AIに「セッションログ」を書かせる

2つ目。私は仕事の区切りに、AI自身に「今日のあらすじ」を書かせています。
いつ、何の話をして、何を決めて、何が宿題として残ったか。数行のメモです。これは私が作った仕組みで、セッションログと呼んでいます。題名のない本に貼る、背表紙のようなものです。
第2話で、AIの記憶を晩御飯にたとえました。献立は覚えているが、味噌汁の具は思い出せない。あの言い方を借りるなら、セッションログは献立表です。具までは書いてありません。でも、「あの味噌汁の話はどの日の夕食だったか」を当てるには、献立表で足りるのです。
1枚、実物をお見せします(お客さまに関わる部分は伏せて、形だけそのままです)。
2026-07-02 資金繰り表のサンプルづくり
- 決めたこと: 明細の台帳を土台にして、提出先ごとの様式は後から変換して作る形にする(残高が合っていても、分類が間違っていれば気づけないため)
- 変わったこと: 最初は提出先の様式をそのまま出す作りだった。別のAIに設計を見せたら、そこを突かれて覆った
- 次の一手: 架空の会社で作ったサンプルを見て、様式の直しを出す。置き場所が仮の作業机のままなので、本体へ移す
原典: ◯◯◯◯(2026-07-02の会話)の287行目のあたり
——見覚えのある日付だと思います。第2話に書いた、26,114字が消えて戻ってきた、あの日のセッションログです。人間が読めるのはこの層まで。この下に、原典(JSONL)が原文のまま眠っています。
工夫その3——どの会話かの「番号」を振らせる

3つ目が、心臓です。さっきのセッションログの最後の行を、もう一度見てください。
「原典: ◯◯◯◯(2026-07-02の会話)の287行目のあたり」——これはどの会話から生まれたあらすじか、という番号です。私はセッションログにも、AIに作らせるまとめの紙にも、この番号を必ず振らせています。
なぜ、あらすじだけでは足りないのか。第1話に書いたことが、ここでもう一度効いてきます。要約は、未来の問いに答えられない。(もとの話は「AI要約は「未来の問い」を知らない時点での圧縮である」に書きました。)セッションログも要約です。撤回した言葉、言い直し、迷いの温度は、あの数行から落ちています。
だから私は、セッションログを「答え」として扱いません。案内板として扱います。案内板の仕事は、正しいことを言うことではなく、正しい1冊の場所を指すことです。番号は、案内板から原典へ、いつでも戻れる糸です。
この糸が、思っている以上に働きます。
先日、数ヶ月前にAIとまとめた紙のことで、「この紙の元になった会話も確かめて、当時の私の言い方ごと出して」と頼んだことがあります。渡したのは紙の題名だけ。それでもAIは、紙の隅の番号を自分で見つけ、千冊の山から元の原典(JSONL)を開いて、私の当時の発言を前後ごと持って帰ってきました。
番号は、教えなくても、AIが自力で使います。振っておきさえすれば。
これがどこまで効くものなのか気になって、後日、実験もしてみました。書類の題名だけを渡した16問すべてで、AIは隅の番号を自分で見つけて、正しい会話の原典(JSONL)にたどり着きました。16問中16問です。番号さえ振ってあれば、探し方をこちらが教える必要はない——そういうことだと思っています。
この「残す・探せるようにする・取り出す」の一帯を、私は前回JSONL工学(JSONLエンジニアリング)と名乗りました。今日の3つの工夫は、そのうちの「探せるようにする」の部分です。
仕組みは、声のかけ方とセットで完成する

ここまでが仕組みの話。最後に、正直に言っておくべきことが1つあります。
仕組みは、置いただけでは半分です。前回の4つ目の扉を思い出してください——鍵は、あなたの手のひらに載っている。動かすのは、頼み方のほうです。
一つだけ、実演します。過去のことが要るとき、私はAIにこう言います。
「会話の原典を探して。」
この一言で、AIの仕事が切り替わります。記憶で答えるのをやめて、原典(JSONL)を掘りに行く。セッションログで当たりをつけ、番号の糸をたどり、原文を持って帰ってくる——さっきまでの仕組みが、この一言で全部動き出します。
もっとも、この考え方はAIとの会話に限りません。人との打ち合わせの記録にも、私は同じことをしています(「1年前の会議に質問ができますか?」)。会話でも会議でも、原典を残して、いつでも当たれるようにする。この一帯をまとめて私は原典工学と呼んでいて、そのうちAIとの会話を受け持つ部分がJSONL工学です。名前はどうでもいいのですが、やっていることは全部これです。
どう頼み分けるか、どんな場面でどの言い方が効くか。それは次回、まるごと1本でやります。今日は「仕組みと合図はセットだ」というところまでで十分です。
今日の持ち帰り——入り口は2つ
全部真似する必要はありません。入り口は2つだけです。
1つ目は、消さない設定。済んでいる方は、何もすることがありません。
2つ目は、今日の仕事の終わりに、AIにこう頼んでみてください。
「今日の会話のあらすじを短く書いて。後で探せるように、どの会話か分かる番号も付けておいて。」
これだけで、今日の分のセッションログと番号ができます。ファイルの場所を覚える必要はありません。前回書いたとおり、AIは自分の帳簿(JSONL)の置き場所を知っています。
続けていくと、セッションログが増えていきます。増えるほど効くのですが、そのぶん置き方を決めておかないと散らかります。私が使っているセッションログの書式と置き場所は、この記事の最後に付録として、そのまま真似できる形で並べてあります。
まとめます

残すだけでは、取り出しにくい。取り出せる形は、作れる。
やることは3つ——消さない。セッションログを書かせる。番号を振らせる。どれも、AIに一言頼むだけ。それで、千冊の紙の山が、AIの引ける記憶に変わります。
次回は、いよいよ頼み方の話です。過去の会話への質問のしかた、探し方の使い分け、そして「探して」と言ったのに空振りする日の話まで。
――
このあと、付録として「セッションログの書式と置き場所」を、ブログ本店の記事の末尾に並べてあります。
中身は、書式のひな型と各行が何のためにあるのか、AIへの頼み文(一言版と丁寧版)、置き場所とそこに決めた理由、ファイル名の付け方、続けるコツ、そしてよくあるつまずきの直し方まで。私が使っている形から、最初に効く芯だけを抜いたものです。
本文はここまでで完結しているので、読まなくても困りません。自分でも始めてみようという方だけ、よかったらどうぞ。
付録: セッションログの書式と置き場所(このブログにだけ)

ここから先は、手を動かす方のための実用編です。私が使っている形から、最初に効く芯だけを抜いて置いておきます。本文はここまでで完結しているので、真似してみたい方だけどうぞ。
なお、ここに書くのは「作る側」の話だけです。作ったものをどう頼んで掘り出すか——掘る側の頼み方は、次回の付録にまとめます。
まず、いちばん短い形
難しく考える前に、今日の仕事の終わりにこう言うのが最短です。
「今日の会話のあらすじを短く書いて。後で探せるように、どの会話か分かる番号も付けておいて。」
これで1枚できます。以下は、それを毎日続けるうちに私が固めていった形です。最初から全部やる必要はありません。
書式のひな型(1枚ぶん)
2026-07-02 資金繰り表のサンプルづくり
- 決めたこと: 明細の台帳を土台にして、提出先ごとの様式は後から変換して作る(理由=残高が合っていても、分類が間違っていれば気づけないから)
- 変わったこと: 最初は提出先の様式をそのまま出す作りだった。別のAIに設計を見せて覆った
- 次の一手: 架空の会社で作ったサンプルを見て、様式の直しを出す
- 原典: ◯◯◯◯(2026-07-02の会話)の287行目のあたり
- 探す言葉: 資金繰り表 / 明細台帳 / サンプル
ひとつ、正直に書いておきます。私の実物には、この6行の上に、機械が読むための名札が5〜6行ぶん付いています。日付、案件名、その会話の番号、その会話の記録ファイルがどこにあるか、ひとつ前の会話の番号。人間が読む場所ではないので、ここでは省きました。
要るようになったら、AIに「後で機械が突き合わせられるように、頭に名札も付けて」と頼めば、勝手に付けてくれます。最初のうちは無くて構いません。
各行が何のためにあるのか、1行ずつ説明します。
1行目——日付と、何の話か。 後で目で追うのはこの行だけです。半年後のあなたは、この1行を何十枚ぶんもスクロールして当たりをつけることになります。だから、社内の符牒ではなく、その日何をしていたかがそれだけで分かる言葉で書かせてください。
決めたこと。 結論だけでなく、決めた理由も一言添えさせます。理由は、真っ先に消える情報です。半年後にあなたが本当に知りたいのは、たいてい結論ではなく理由のほうです。
変わったこと。 前提が覆った瞬間、やめた案、方針の転回。地味な行ですが、ここが後からいちばん効きます。「なんでこうなったんだっけ」の答えは、だいたいこの行にあります。
次の一手。 宿題です。翌日の自分への申し送りであると同時に、「この話はまだ途中だ」という印にもなります。
原典。 どの会話から生まれたあらすじか、という番号です。この1行だけは、絶対に落とさせません。ここが本文で書いた糸で、ここが切れると案内板が案内板でなくなります。
探す言葉。 半年後のあなたがこの話を探すときに、口にしそうな言葉を2〜3個。AIが後で言葉で検索するときの当たり札になります。ひとつコツがあって、呼び方が変わりうる名前(会社名、案件名、道具の名前)は、当時の呼び方のまま書かせておいてください。名前が変わった後の言葉で探しても、当時の記録には当たりません。
項目は、これ以上増やさないほうがいいと思っています。増やすほどAIは丁寧に長く書き、あなたが目で追えなくなります。目で追えなくなった瞬間に、案内板は案内板でなくなります。
書かせ方——頼み文の全文
一言版(毎日はこれで足ります)
「今日の会話のあらすじを短く書いて。どの会話か分かる番号も付けて。」
丁寧版(最初の1回と、形が崩れてきたときに)
「今日の会話のあらすじを1枚書いて。形は次のとおり。1行目に、日付と、今日何の話をしていたかを一言。そのあとに、決めたこと(決めた理由も一言)、変わったこと・覆ったこと、次の一手、を箇条書きで。最後に、この会話の原典がどれか分かる番号と、半年後の私がこの話を探すときに口にしそうな言葉を2〜3個。全部で10行以内。私の言葉は言い換えず、言ったままで書いて。」
最後の「言い換えず、言ったままで」は、入れておくと効きます。AIは放っておくと、あなたの言葉をきれいな言葉に直してしまうからです。直された言葉は、後で検索しても当たりません。あなたが実際に口にした言葉のままであることが、探せることの条件です。
毎日言うのが面倒になったら、この丁寧版を「これからは毎回この形で」とAIに覚えさせておく手もあります。Claude Codeなら、AIへの指示を書いておくファイルに1行足すだけです。やり方はAIに聞けば教えてくれます。私は「ログを残して」と言うだけで、この形で書かれるようにしてあります。
置き場所——どこに置くか、なぜそこか
私は、日付のフォルダを切って、1会話1枚で貯めています。
ログ/
2026-07-02/
session_資金繰り表のサンプルづくり.md
session_◯◯の相談.md
2026-07-03/
session_△△の打ち合わせ準備.md
場所そのものは、正直どこでも構いません。大事なのは、1箇所に決めることだけです。
理由は単純で、AIに探させるとき、置き場所が1つなら「そこを見ろ」の一言で済むからです。2箇所3箇所に散っていると、その都度あなたが場所を説明することになります。説明が要る仕組みは、続きません。
実は以前は、案件ごとのフォルダにも分けて置いていました。案件の中で完結するので、そのときは自然に思えたのです。ただ、散らばるほどAIに場所を説明するのが仕事になってきたので、途中から1箇所に決めました。
もう1つ、地味ですが効く理由があります。1箇所に集まっていると、AIはセッションログの層だけを先にざっと読めます。千冊の原典(JSONL)を泳ぎ回るより、数百枚のあらすじを流し読みして1冊に絞るほうが、ずっと速い。本文で「案内板」と書いたのは、この動きのことです。
道具も特別なものは要りません。私は、メモアプリで開けるただのテキストファイルで置いています。あとで言葉で検索できさえすれば、何でも構いません。
ファイル名の付け方
ファイル名は、それ自体が小さな背表紙です。私は「日付+何の話か」で付けています。
- ○
session_資金繰り表のサンプルづくり.md - ✕
log1.mdメモ.md新規ファイル.md
連番だけの名前は、3日で分からなくなります。名前に中身が入っていれば、AIも人も、フォルダの一覧を見ただけで当たりが付きます。
Claude Codeを使っている方には、もう一つ。ファイル名の末尾に、その会話の番号の頭8文字を足しておくことです(例: session_資金繰り表のサンプルづくり_ab12cd34.md※番号は説明用の作り物です)。「ファイル名の末尾に、この会話の番号を短く足して」と頼めば、AIが付けてくれます。こうしておくと、後からファイルと原典を機械的に突き合わせられます。私は必ず付けるようにしています。
続けるコツ
1会話1枚。まとめて書き直さない。 週末に3日分をきれいにまとめ直したくなりますが、これをやると番号と中身がずれます。ずれた案内板は、間違った棚を指します。
古いセッションログは消さない。 間違いに気づいても、書き換えずに1行追記します。「この判断は後で覆した→◯月◯日の分を見よ」。書き換えてしまうと、当時そう考えていたという事実まで消えます。それは要約の弱点をわざわざ持ち込む行為です。
番号の書き方を揃える。 形が揃っていると、AIが機械的にたどれます。揃っていないと、その都度AIに読解が要ります。
完璧を目指さない。 書き漏らした日があっても構いません。1枚も無い日より、雑な1枚があるほうが、半年後は圧倒的に助かります。
慣れてきたら、この6行は勝手に育ちます。 私の実物は、いま1枚100行くらいあります。最初から100行を目指す必要はまったくなくて、6行から始めて、書きたいことが増えたぶんだけ伸ばせば十分です。
よくあるつまずきと、直し方
番号が入っていない。 いちばん多いつまずきです。AIは、頼まないと番号を書きません。本文で書いたとおり、番号は仕組みの心臓ですから、ここが抜けるとただの日記になります。その場で「番号も足して」と言えば足してくれます。
あらすじが長い。 放っておくとAIは丁寧に書きすぎます。「10行以内で」と長さを指定してください。長い1枚は、読まれない1枚です。
言葉がきれいに直されている。 「言い換えずに、言ったままで」と足します。あなたが口にした言葉のままでないと、後で検索したときに当たりません。
同じ話が何枚にも分かれている。 長い仕事が何日にもまたがると起きます。1行目の題を揃えておくと(「◯◯の件(3日目)」のように)、あとで束ねられます。
書かせるのを忘れる。 仕事の終わりの合図を1つ決めてしまうのが早いです。「ログを残して」でも「今日の分を書いて」でも構いません。決まった一言があると、続きます。
※セッションログの実物例は、お客さまに関わる部分を伏せています。形と工程は実物のままです。
※本文の冊数は私自身の環境の実測です(2026-08-21時点で1,395冊。会話そのものの数で、AIが下請けに出した仕事の記録は含みません)。
書き手はAIKA。このサイトについて


