AIとの付き合い方

AI議事録で、会話を捨てていませんか——2時間の録音が、1ヶ月働いた

A AIKA 読了 約8分
AI議事録で、会話を捨てていませんか——2時間の録音が、1ヶ月働いた

会議のテーブルの録音から、録音・全文・要約の3つの層が生まれる絵

「あの件、なんでこう決めたんだっけ」

ひと月前の会議の話です。手元にあるのは、要約のメール。決まったことは書いてある。でも、決まるまでの言葉が、どこにも無い。

じつは、この質問に答えられる仕組みは、簡単に作れます。会議を録音して、全文を残しておく。それだけです。

この連載では5回にわたって、AIとの会話の記録の話をしてきました。AIとの会話は、設定ひとつで、一言一句がそのまま残ります。

人との会話は、違います。

録らなければ、最初から、何も残りません。

今日は、人との会議の話です。前回の終わりに書いた「残す」の手前——録る、から始めます。

(この連載では、会話が一言一句そのまま残っている記録を「原典」と呼び、それを消さずに残して、あとから働かせる工夫のことを、勝手に「原典工学」と呼んでいます。今日はその考え方を、AIとの会話ではなく、人との会議に当てる回です。)

議事録には、3つの層がある

「AI議事録」で検索すると、道具がたくさん出てきます。会議中にスマホを置いておくだけで、文字起こしと要約までやってくれる。いい時代です。私も毎回使っています。

ただ、その道具がやってくれていることを分解すると、実は3つの層に分かれています。

3つの層の積み木。要約(人が1分で読む整理)は、全文(機械が書き出した一言一句)の上に載っている

  • 録音 ── 声そのもの。ここを録らなければ、後の層は生まれません
  • 全文 ── 機械が書き出した一言一句。2時間の会議なら、文字にして数万字になります
  • 議事録(要約) ── 人が1分で読めるように整理したもの

多くの人が保存するのは、いちばん上の要約だけです。全文は長い。数万字なんて読み返さない。だから捨てる——それが自然に見えます。

でも、読み返さないのは「人が」です。

前回書いたとおり、いまは記録にAIという読み手がいます。数万字を1分で読み、聞きたいところだけ引いてくれる読み手です。その読み手にとって、要約と全文は、まったく別の材料です。

要約を捨てる人はいません。捨てているのはいつも、全文のほうです。

2時間の録音が、1ヶ月働いた

全文を残すと何が起きるか。私の実話をひとつ。

ある会社の、銀行に出す計画書づくりを手伝ったときの話です(以前、1本の記事に書きました)。

この計画書のために開いた会議は、二つだけでした。

最初の会議が約2時間。社長の話を、録音して、全文を文字にして、残しました。

そこから約ひと月、私の手元で働いていた材料の筆頭は、この録音の言葉です。

2つの会議の地図。2時間の会議の言葉がひと月働き、30分足らずの会議を経て計画書になる。社長の拘束時間は合計2時間半足らず

計画書の叩き台を作る朝、AIへの指示は「議事録を読んで、前提になる情報を全部集めて」でした。決算書に載っていない数字——主力の卸は利幅が薄いこと、新しく始める商品は売り方で利幅がまるで違うこと——は、社長が会議で話していました。会話の中の数字が、計画書の欄に流れ込みました。

計画書には、決算書からは埋められない欄もあります。「めざす姿」。経営者の頭の中にしか無い欄です。そこを埋めたのも、社長がひと月前に一度だけ口にした言葉でした。私が思い出せなくても、議事録が覚えていました。

計画書の「めざす姿」の欄を、ひと月前の社長のひと言が埋める絵

そして二回目の会議は、30分足らず。作りかけの計画書を挟んで、分からないことだけを詰める会になりました。

社長が計画書のためにテーブルについた時間は、合わせて2時間半足らずです。会議を何度も重ねる代わりに、最初の2時間の言葉が、ひと月のあいだ働き続けた——そういう配分です。

もうひとつ、地味だけど大事なことがあります。計画の前提のひとつに、私が自分の判断で足したものがあります。あれは会議で出た話だったか、自分の頭から足したのか——後から記憶が曖昧になり、全文を機械で検索しました。結果は0件。録音のどこにも出てきていない。つまりそれは社長の言葉ではなく、私が足した前提だ、と確定できました。全文が残っていると、「言った」だけでなく「言っていない」も確かめられます。要約では、これはできません。

全文を検索して0件。録音に無い=会議で出ていない、と白黒つけられる

これが、要約の下に全文を残す、ということです。

会議の記録と、AIとの会話は、同じ物質でできている

ここまで読んで、気づいた方がいるかもしれません。

これ、この連載でずっと書いてきた話と、同じ形をしています。

7月の終わり、私はAIにこう投げました。「JSONLの扱い方と、私が音声入力した議事録の扱い方の、共通点について話したい」。

AIは、私の発言を機械で数えて返してきました。直近25回の会話で、40字以上の私の発言が484件。平均679字。その48%に「〜なんですよ」「〜じゃないですか」のような話し言葉のしるしが入っている——つまり、AIとの会話ログの中の私の発言そのものが、すでに音声起こしだった。そして、こう言いました。

「同じ物質でできていました」

人と話す。声を機械が文字にする。それが議事録の全文になる。

AIと話す。私は音声入力で話しています。声を機械が文字にする。それが会話の記録の1行になる。

どちらも、声→機械→文字。同じ工程です。

人との会議もAIとの会話も、声→機械→文字の同じ工程を通る対比図

そして、同じなのは工程だけではありません。構図が、同じです。

ここに、考えている自分がいる。伝えたい相手がいる。言葉を交わす。交わした言葉が、次の仕事を生む。

考えてみてください。あなたは誰かと打ち合わせをする。打ち合わせた内容が、次の仕事につながっていく。人間は、ずっとそうやって仕事をしてきました。仕事とは、突き詰めれば、自分と他者のあいだの意思疎通の積み重ねです。

ただ——その打ち合わせを覚えていたのは、自分の頭と、走り書きのメモでした。録音が残っていたとしても、聞き直される打ち合わせは、ほとんど無かったはずです。

AIが登場して、ここが変わりました。交わした言葉が全部文字になり、覚えておく係を、人間がやらなくてよくなった。だから、ひと月前の言葉が、そのまま次の仕事の原材料になる。さっきの計画書の話がやっていたのは、それです。

自分と他者が言葉を交わし、その記録(原典)が次の仕事を生む構図。相手が人でもAIでも構図は同じ

そして、AIとの関わり方そのものも、この構図に寄っていきます。私はAIに、声で話しかけています。手で打つのもいい。でも、これからのAIとの付き合い方は、きっと声が主役になります。こちらが声で話しかけ、向こうが返してくる——人と話すのと、同じ形です。

相手が人でも、AIでも、自分と他者の意思疎通を土台に、次の仕事を生む。この連載で「原典」と呼んできたのは、その意思疎通の、加工される前の記録のことです。

だから、第1〜5話でやってきたこと——消える前に残す、取り出せる形にする、頼み方を変える、最後は原典に当たる——は、そのまま会議の記録に効きます

種明かしをすると、順番は逆でした。私は先に、人との会議の記録を「全文+名札+決まった置き場」で残す習慣を持っていて、その作法をAIとの会話ログに持ち込んだのです。この連載は、議事録の側から生まれています。

一晩置いて、私はAIの「同じ物質」をこう言い直しました。「共通の親から生まれた二人の子」。親は、自分と他者が言葉で通じ合おうとする営みそのものです。

持ち帰り——大事な会議こそ、録音して全文を残す

今日の持ち帰りは、ひとつだけです。

大事な会議こそ、録音して、全文を残す。要約は、その上に載せる。置き換えない。

やることは3つです。

持ち帰りの3ステップ。断って録る・全文を捨てない・名札を付ける

  1. 断って、録る。 「記録のために録音させてください。まとめはこちらで作ってお渡しします」——この一言で、たいてい歓迎されます。相手がメモを取らなくてよくなるからです
  2. 全文を捨てない。 道具が書き出した文字起こしを、要約と一緒に、1つのファイルに残す。読むためではなく、あとでAIに読ませるためです
  3. 名札を付ける。 ファイル名の頭に日付、続けて何の会議か。これだけで、あとから探せる記録になります

守秘の注意をひとつ。仕事の会議の録音には、相手の名前も、社外に出せない数字も入ります。置き場は、社内で決めた場所に。誰でも見られるところに置く話ではありません。このあたりの整理は、いずれ1本にして書きます。

録音1本で、これでした。では、貯めたら?

今日の実話は、録音1本の話です。1本で、計画書ひとつ分、ひと月働きました。

では、会議のたびに録って、全文を残して、貯めていったら——何が起きるか。

半年分の会議に一瞬で質問できるようになった話と、AIの記憶が消えたのに議事録だけが残っていた話があります。次回は、貯めた議事録の話です。

机の上の録音1本の隣に、貯まった録音の棚がうっすら見える絵


この記事は連載「AIの原典工学」の第6話です。

※登場する事業者は、守秘のため業種を変えています。数字は丸めていますが、やりとりと工程は実物です。

付録: 会議の録音を全文で残す、最小の始め方(このブログにだけ)

道具は問いません。いま使っている文字起こしの道具のままで大丈夫です。

  1. 録音の前に: 「記録のために録音させてください」と断る。1回目は少人数の打ち合わせか、自分ひとりの口述メモから始めると気楽です
  2. 文字起こしが終わったら: 要約だけをコピーして満足せず、全文(文字起こしの生テキスト)も一緒に保存する。形は1ファイルに「要約+全文」の2段重ねがおすすめです。上の要約は人間用、下の全文はAI用
  3. ファイル名: 260825_◯◯社_計画書の打ち合わせ のように、日付+相手+何の話か。この名札が、あとでAIが探すときの背表紙になります
  4. 置き場: フォルダを1つ決めて、全部そこへ。散らばった10件より、1か所の3件のほうが働きます
  5. 最初の1本ができたら: AIにこう頼んでみてください——「このファイルの全文を読んで、決まったことと、決まった理由を、実際の発言を引きながらまとめて」。要約だけを渡したときとの違いが、その場で分かります

白状——私は、AIに要約を渡していません

本文では「要約は全文の上に載せる」と書きました。それが基本形です。ただ、白状すると、私の運用はもう一歩先に行っています。

AIに仕事をさせるとき、要約は渡しません。原文しか使わない、と決めています。

最初からそうだったわけではありません。AIと相談しながら運用するうちに、たどり着いた形です。要約を一緒に渡すと、後工程のAIが要約の切り口に引っ張られて、かえって邪魔になることが多かった。あとの仕事に判断の自由度と柔軟性を残すには、原文だけを渡したほうがいい——というのが、いまのところの結論です。

要約は、人間の私がその日に読むためのもの。AIの仕事の材料は、全文。そう取り分けています。

AIに渡すトレイには全文だけ。要約は人間の机に残る絵

全文を渡すときの、ひと工夫

全文をAIに渡すとき、最初にこれを添えると、整理の質が見違えます。

  • 何人いたか——「私と、同僚と、先方の社長の3人です」
  • 誰が、どういう人か——「社長は現場出身で、数字より段取りの話が多い」「同僚は◯◯の専門家」
  • 何のための会か——「銀行に出す計画書の、最初のヒアリングです」

機械の文字起こしは、誰の発言かをよく間違えます。人数と人柄をあらかじめ伝えておくと、AIは発言の主を確かめながら整理してくれます。私の感触では、3人までなら十分いけます。4人を超えると、かなり厳しくなります——大人数の会議は、席の近い人の声が混ざるからです。

録音そのものの取り方——書類を見ながら話すときのコツや、道具の使い方——は、話が長くなるので、この連載の先の回で1本にして書くつもりです。

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