AI議事録で、会話を捨てていませんか——2時間の録音が、1ヶ月働いた

「あの件、なんでこう決めたんだっけ」
ひと月前の会議の話です。手元にあるのは、要約のメール。決まったことは書いてある。でも、決まるまでの言葉が、どこにも無い。
じつは、この質問に答えられる仕組みは、簡単に作れます。会議を録音して、全文を残しておく。それだけです。
この連載では5回にわたって、AIとの会話の記録の話をしてきました。AIとの会話は、設定ひとつで、一言一句がそのまま残ります。
人との会話は、違います。
録らなければ、最初から、何も残りません。
今日は、人との会議の話です。前回の終わりに書いた「残す」の手前——録る、から始めます。
(この連載では、会話が一言一句そのまま残っている記録を「原典」と呼び、それを消さずに残して、あとから働かせる工夫のことを、勝手に「原典工学」と呼んでいます。今日はその考え方を、AIとの会話ではなく、人との会議に当てる回です。)
議事録には、3つの層がある
「AI議事録」で検索すると、道具がたくさん出てきます。会議中にスマホを置いておくだけで、文字起こしと要約までやってくれる。いい時代です。私も毎回使っています。
ただ、その道具がやってくれていることを分解すると、実は3つの層に分かれています。

- 録音 ── 声そのもの。ここを録らなければ、後の層は生まれません
- 全文 ── 機械が書き出した一言一句。2時間の会議なら、文字にして数万字になります
- 議事録(要約) ── 人が1分で読めるように整理したもの
多くの人が保存するのは、いちばん上の要約だけです。全文は長い。数万字なんて読み返さない。だから捨てる——それが自然に見えます。
でも、読み返さないのは「人が」です。
前回書いたとおり、いまは記録にAIという読み手がいます。数万字を1分で読み、聞きたいところだけ引いてくれる読み手です。その読み手にとって、要約と全文は、まったく別の材料です。
要約を捨てる人はいません。捨てているのはいつも、全文のほうです。
2時間の録音が、1ヶ月働いた
全文を残すと何が起きるか。私の実話をひとつ。
ある会社の、銀行に出す計画書づくりを手伝ったときの話です(以前、1本の記事に書きました)。
この計画書のために開いた会議は、二つだけでした。
最初の会議が約2時間。社長の話を、録音して、全文を文字にして、残しました。
そこから約ひと月、私の手元で働いていた材料の筆頭は、この録音の言葉です。

計画書の叩き台を作る朝、AIへの指示は「議事録を読んで、前提になる情報を全部集めて」でした。決算書に載っていない数字——主力の卸は利幅が薄いこと、新しく始める商品は売り方で利幅がまるで違うこと——は、社長が会議で話していました。会話の中の数字が、計画書の欄に流れ込みました。
計画書には、決算書からは埋められない欄もあります。「めざす姿」。経営者の頭の中にしか無い欄です。そこを埋めたのも、社長がひと月前に一度だけ口にした言葉でした。私が思い出せなくても、議事録が覚えていました。

そして二回目の会議は、30分足らず。作りかけの計画書を挟んで、分からないことだけを詰める会になりました。
社長が計画書のためにテーブルについた時間は、合わせて2時間半足らずです。会議を何度も重ねる代わりに、最初の2時間の言葉が、ひと月のあいだ働き続けた——そういう配分です。
もうひとつ、地味だけど大事なことがあります。計画の前提のひとつに、私が自分の判断で足したものがあります。あれは会議で出た話だったか、自分の頭から足したのか——後から記憶が曖昧になり、全文を機械で検索しました。結果は0件。録音のどこにも出てきていない。つまりそれは社長の言葉ではなく、私が足した前提だ、と確定できました。全文が残っていると、「言った」だけでなく「言っていない」も確かめられます。要約では、これはできません。

これが、要約の下に全文を残す、ということです。
会議の記録と、AIとの会話は、同じ物質でできている
ここまで読んで、気づいた方がいるかもしれません。
これ、この連載でずっと書いてきた話と、同じ形をしています。
7月の終わり、私はAIにこう投げました。「JSONLの扱い方と、私が音声入力した議事録の扱い方の、共通点について話したい」。
AIは、私の発言を機械で数えて返してきました。直近25回の会話で、40字以上の私の発言が484件。平均679字。その48%に「〜なんですよ」「〜じゃないですか」のような話し言葉のしるしが入っている——つまり、AIとの会話ログの中の私の発言そのものが、すでに音声起こしだった。そして、こう言いました。
「同じ物質でできていました」
人と話す。声を機械が文字にする。それが議事録の全文になる。
AIと話す。私は音声入力で話しています。声を機械が文字にする。それが会話の記録の1行になる。
どちらも、声→機械→文字。同じ工程です。

そして、同じなのは工程だけではありません。構図が、同じです。
ここに、考えている自分がいる。伝えたい相手がいる。言葉を交わす。交わした言葉が、次の仕事を生む。
考えてみてください。あなたは誰かと打ち合わせをする。打ち合わせた内容が、次の仕事につながっていく。人間は、ずっとそうやって仕事をしてきました。仕事とは、突き詰めれば、自分と他者のあいだの意思疎通の積み重ねです。
ただ——その打ち合わせを覚えていたのは、自分の頭と、走り書きのメモでした。録音が残っていたとしても、聞き直される打ち合わせは、ほとんど無かったはずです。
AIが登場して、ここが変わりました。交わした言葉が全部文字になり、覚えておく係を、人間がやらなくてよくなった。だから、ひと月前の言葉が、そのまま次の仕事の原材料になる。さっきの計画書の話がやっていたのは、それです。

そして、AIとの関わり方そのものも、この構図に寄っていきます。私はAIに、声で話しかけています。手で打つのもいい。でも、これからのAIとの付き合い方は、きっと声が主役になります。こちらが声で話しかけ、向こうが返してくる——人と話すのと、同じ形です。
相手が人でも、AIでも、自分と他者の意思疎通を土台に、次の仕事を生む。この連載で「原典」と呼んできたのは、その意思疎通の、加工される前の記録のことです。
だから、第1〜5話でやってきたこと——消える前に残す、取り出せる形にする、頼み方を変える、最後は原典に当たる——は、そのまま会議の記録に効きます。
種明かしをすると、順番は逆でした。私は先に、人との会議の記録を「全文+名札+決まった置き場」で残す習慣を持っていて、その作法をAIとの会話ログに持ち込んだのです。この連載は、議事録の側から生まれています。
一晩置いて、私はAIの「同じ物質」をこう言い直しました。「共通の親から生まれた二人の子」。親は、自分と他者が言葉で通じ合おうとする営みそのものです。
持ち帰り——大事な会議こそ、録音して全文を残す
今日の持ち帰りは、ひとつだけです。
大事な会議こそ、録音して、全文を残す。要約は、その上に載せる。置き換えない。
やることは3つです。

- 断って、録る。 「記録のために録音させてください。まとめはこちらで作ってお渡しします」——この一言で、たいてい歓迎されます。相手がメモを取らなくてよくなるからです
- 全文を捨てない。 道具が書き出した文字起こしを、要約と一緒に、1つのファイルに残す。読むためではなく、あとでAIに読ませるためです
- 名札を付ける。 ファイル名の頭に日付、続けて何の会議か。これだけで、あとから探せる記録になります
守秘の注意をひとつ。仕事の会議の録音には、相手の名前も、社外に出せない数字も入ります。置き場は、社内で決めた場所に。誰でも見られるところに置く話ではありません。このあたりの整理は、いずれ1本にして書きます。
録音1本で、これでした。では、貯めたら?
今日の実話は、録音1本の話です。1本で、計画書ひとつ分、ひと月働きました。
では、会議のたびに録って、全文を残して、貯めていったら——何が起きるか。
半年分の会議に一瞬で質問できるようになった話と、AIの記憶が消えたのに議事録だけが残っていた話があります。次回は、貯めた議事録の話です。

この記事は連載「AIの原典工学」の第6話です。
- 第1話 AIとの会話のすべては原典にある——JSONLを残せ
- 第2話 あなたのAIが全て覚えている——JSONL工学とは
- 第3話 AIに記憶をつくる——残すだけでは、取り出せない
- 第4話 「あの話どうだったっけ」では、AIは探しに行かない
- 第5話 「全部残すのは無理」は、読み手がいなかった時代の判決
※登場する事業者は、守秘のため業種を変えています。数字は丸めていますが、やりとりと工程は実物です。
付録: 会議の録音を全文で残す、最小の始め方(このブログにだけ)
道具は問いません。いま使っている文字起こしの道具のままで大丈夫です。
- 録音の前に: 「記録のために録音させてください」と断る。1回目は少人数の打ち合わせか、自分ひとりの口述メモから始めると気楽です
- 文字起こしが終わったら: 要約だけをコピーして満足せず、全文(文字起こしの生テキスト)も一緒に保存する。形は1ファイルに「要約+全文」の2段重ねがおすすめです。上の要約は人間用、下の全文はAI用
- ファイル名:
260825_◯◯社_計画書の打ち合わせのように、日付+相手+何の話か。この名札が、あとでAIが探すときの背表紙になります - 置き場: フォルダを1つ決めて、全部そこへ。散らばった10件より、1か所の3件のほうが働きます
- 最初の1本ができたら: AIにこう頼んでみてください——「このファイルの全文を読んで、決まったことと、決まった理由を、実際の発言を引きながらまとめて」。要約だけを渡したときとの違いが、その場で分かります
白状——私は、AIに要約を渡していません
本文では「要約は全文の上に載せる」と書きました。それが基本形です。ただ、白状すると、私の運用はもう一歩先に行っています。
AIに仕事をさせるとき、要約は渡しません。原文しか使わない、と決めています。
最初からそうだったわけではありません。AIと相談しながら運用するうちに、たどり着いた形です。要約を一緒に渡すと、後工程のAIが要約の切り口に引っ張られて、かえって邪魔になることが多かった。あとの仕事に判断の自由度と柔軟性を残すには、原文だけを渡したほうがいい——というのが、いまのところの結論です。
要約は、人間の私がその日に読むためのもの。AIの仕事の材料は、全文。そう取り分けています。

全文を渡すときの、ひと工夫
全文をAIに渡すとき、最初にこれを添えると、整理の質が見違えます。
- 何人いたか——「私と、同僚と、先方の社長の3人です」
- 誰が、どういう人か——「社長は現場出身で、数字より段取りの話が多い」「同僚は◯◯の専門家」
- 何のための会か——「銀行に出す計画書の、最初のヒアリングです」
機械の文字起こしは、誰の発言かをよく間違えます。人数と人柄をあらかじめ伝えておくと、AIは発言の主を確かめながら整理してくれます。私の感触では、3人までなら十分いけます。4人を超えると、かなり厳しくなります——大人数の会議は、席の近い人の声が混ざるからです。
録音そのものの取り方——書類を見ながら話すときのコツや、道具の使い方——は、話が長くなるので、この連載の先の回で1本にして書くつもりです。
書き手はAIKA。このサイトについて


