AI要約は「未来の問い」を知らない時点での圧縮である

議事録の話の、続きです。前回は、貯めた議事録が質問できる資産になる話を書きました(1年前の会議に質問ができますか?)。
今回は、いちばん時間の長い話です。何か月も前の議事録が、まだ働いている話。
以前、AIとこの話をしていて、こんな一文が出てきました。
要約は、未来の問いを知らない時点での圧縮である。
要約を作るとき、私たちはまだ、その記録に将来どんな問いを投げるのかを知りません。知らないまま「ここは要らない」と捨てている。今日は、そういう話をします。
おにぎり屋さんの、7本の議事録
無農薬・自然農法のお米を使ったおにぎり屋さん、パラノイドおにぎり。紙の決算書をデータにした話(第1話)と、レジデータ40ヶ月を読んだ話(前編・後編)で、これまで3本の記事に登場してもらいました。
この店の支援は今年の1月からです。打ち合わせや相談会の録音は、毎回、全文のまま議事録にしてきました。作り方は第1弾で書いた型のままです。全文で受け取り、名札を付けて、一つの場所に貯める。いま数えると7本。録音を足し合わせると約5時間半、文字起こしで約12万字になります。資金繰りの相談、値上げの決断、新しい企画の構想。この店の意思決定が、ほぼ全部この7本に入っています。
ここでひとつ、種明かしをします。レジデータの前編と後編に出てきた「実際のやりとり」——店主の「めっちゃすごいですね、これ」も、「卸してる先の分は入ってないです」も——は、私の記憶から書いたものではありません。**全部、この議事録から引いています。**数字の記事の裏で、言葉の記録がずっと並走していました。
なお、後編の最後に予告した「主役たちをどう売っていくか」の話は、また別の回に書きます。今回はその裏側、記録の側の話です。

議事録が、AIのやることリストになる
4月の打合せの日のことです。値上げに踏み切ったこと、カード決済をやめると決めたこと、新しい企画の構想。話した中身はその日のうちに議事録になり、さらにその議事録をAIに渡すと、もう1枚の文書ができました。
打合せの内容をAからHの8つに仕分けて、1件ずつに「AIの次の作業にどれくらい効くか」の星印を付けた、優先度つきのやることリストです。たとえばこんな具合です。
- 値上げ、実施済み → 課題の進み具合の記録に反映する(星3つ)
- カード決済の廃止が決定 → 新しい対策として追加する(星2つ)
- 資金繰りの山場の時期を、これまでの分析で1年間違えていた → 資料をすぐ訂正(星3つ)
会議の記録が、そのまま「AIが次に何をするか」の指示書になる。前回の青果店では、会議の19分後に段取り書ができました。この店では、毎回の打合せでこれが回っています。
特別な道具は使っていません。議事録をAIに渡して、「次の作業に効く順に仕分けて」と頼む。それだけです。打合せのたびにこれをやると、会議が使い捨てになりません。話したことが、次の作業の頭に積み上がっていきます。
そしてこのリストは、次の指示だけではありませんでした。前の仕事の採点表でもあったのです。
この日の議事録と録音を突き合わせる過程で、それまでの分析が2か所直り、1つの事実に数字の裏付けが付きました。直ったのは、原価率の計算に使っていた数字の取り違えと、資金繰りの山場の年のずれ。裏付けが付いたのは、レジを通らない卸売がある事実——前編で店主が「卸してる先の分は入ってないです」と話していた、あれです。会話が、過去の資料の間違い探しと答え合わせまでしてくれました。
答え合わせがここまで効くのは、記録が要約ではなく全文だからです。要約に落ちてしまった一言は、あとから突き合わせられません。
議事録は、次の指示書であり、前の仕事の採点表でもある。

4か月前の言葉が、そのまま記事になった
種明かしの続きです。
レジデータ前編でいちばん長い章——相談の場で、店主と一緒に画面を見ながらその場で分析する場面——は、3月の相談会の議事録1本から書きました。書いたのは7月末。4か月あまり前の言葉です。
店主の「めっちゃすごいですね、これ」も、売上のズレを疑ったら「卸してる先の分は入ってないです」と種が明かされる瞬間も、全部そのまま残っていました。
人の記憶は、意味で残ります。「あの日、分析を見せたら驚いてもらえた」——残るのはそこまでで、言葉そのものは消えていきます。誰が、どの順番で、なんと言ったか。4か月も経てば、思い出せるのは「だいたいこんな話だった」までです。
議事録は、言葉ごと残ります。だから4か月経っても、「だいたい」ではなく、その日の言葉のまま取り出せる。
そして、こういう原典があれば、その日の会話の温度や、空気や、感情も、ある程度そのまま残ります。言いよどんだ間。言い直したところ。少し声が大きくなった箇所。AIの要約には、こういうものは残りません。原典でないと、絶対に当たれない情報です。
同じことは、記事に限りません。店主が新しい企画を最初に口にした日の言い回しは、その日の議事録に残っています。提案書に引くとき、いちばん強いのは本人の言葉です。前回の宿題を、次の打合せの頭で言葉のまま確かめることもできます。原典があると、仕事の始まりが「思い出す」からではなく「取り出す」からになります。
そして取り出せるのは、その日の言葉だけではありません。**当時の会話のニュアンスや、雰囲気ごと取り出せます。**4か月後に取り出す価値があるのは、実はこういうところだったりします。
4か月後にこの議事録を何に使うかは、録った日には分かっていませんでした。前回、「この時点では、どの言葉が後で効くのか分かりません。分からないから、全文で残します」と書きました。この店の7本は、その「後で」が実際に来た記録です。
冒頭の一文には、続きがあります。
要約が落とすのは、情報量ではなく、運動である。圧縮率をどれだけ上げても、運動は復元できない。
要約は、結論だけを残します。でも、その日の会話にあったのは結論だけではありません。結論に至るまでの、考えが動いていく過程があった。温度も、迷いも、そこにあります。それは字数を削ったから失われるのではなく、要約という操作そのものが落としてしまうものです。だから、あとから足せません。

議事録は、商売の原典である
まとめます。この店の7本の議事録は、この4か月あまりで3つの働き方をしました。
打合せの日には、AIのやることリストになった。
たまった分は、前の仕事の答え合わせになった。
そして4か月前の1本は、言葉のまま、次の仕事の材料になった。
私は、こういう「元となる生の記録」のことを、原典と呼んでいます。要約でも、まとめでもなく、話したことがそのまま残っている大元。議事録は、人と話したことの原典です。第1弾で「AIがいつでも読める帳簿を作る」と書きましたが、あの帳簿の正体は、これでした。
そして実は、AIと話したことにも原典があります。AIとのやりとりの、生の記録です。
これは「JSONL」という記録の形式で、一応、あなたのパソコンの奥にも眠っています。
人との話の原典が議事録なら、AIとの話の原典はそちら側にある。**原典を残して、あとからいかに取り出すか。**私はこれを勝手に「原典工学」と呼んで、AI活用の大きな鍵ではないかと考えています。
AIに向かって話すときは「プライマリーソース・エンジニアリング」、あるいは「JSONL Engineering」などと呼んでみたりもします。ただ、かっこつけてみただけなんですが。

AIとの話の原典をどう扱うかは、書き始めるとブログが10本あっても足りないので、今日はやめておきます。ただ、ひとつだけ。私はエンジニアではなく、コンサルタントです。そのコンサルタントの目には、AI活用の鍵は、新しい道具を次々に追いかけることではなく、この原典の扱いにあるように見えています。
もし今日、誰かと打ち合わせをしたなら。その録音を全文のまま議事録にして、自分の場所に置いてみてください。それが何か月後に効くのかは、今日のあなたには分かりません。分からないから、置いておく。議事録は、あなたの商売の原典です。

※第1弾で予告した「帳簿の作り方」——名札のルールの決め方や、文字起こしを自動で取り込む仕組み——は、工程を分解した記事として準備しています。作り方を急ぎで知りたい方は、コメントでそう教えてください。順番を入れ替えます。
※登場する事業者は、守秘のため業種を変えています。やりとりと工程は実物です。
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