ただの議事録を、AIの原典として扱うと……

前回、議事録の話を書きました(1年前の会議に質問ができますか?)。文字起こしの全文に名札を付けて、一つの帳簿に貯めると、半年前の会議にも一瞬で質問できる。そういう話です。
今回は、その帳簿から取り出す側の実話です。素材は、以前書いた銀行に出す1枚の計画書(前編・後編)。あの計画書の裏側で、議事録が何をしていたか。
先に言ってしまうと、あの計画書づくりで開いた会議は二つだけです。最初が2時間、次が30分足らず。間の1か月、私の手元で働いていた材料の筆頭は、最初の会議の録音の言葉でした。
二時間の会議が、議事録になった
まちなかで青果の卸売をやっている、パラノイド青果店。初回の訪問で、社長ご夫妻と銀行の担当の方を交えて、じっくり話を聞きました。録音は1時間56分。文字起こしにすると約4万字、原稿用紙にして100枚です。
4万字の中には、その日の話が全部入っています。数字の確認。商売の組み立て。社長がやりたいと思っていること。銀行とのやりとり。この時点では、どの言葉が後で効くのか分かりません。分からないから、全文で残します。
この文字起こしは、その日のうちに全文のまま議事録になっています。作り方は前回書いた通りなので、ここでは繰り返しません。今日の主役は、ここから先です。

ひと月後。AIへの指示は「原典を当たれ」
ひと月後、計画書の叩き台づくりに取りかかった朝、私がAIに出した指示の実物がこれです。
(会社名)作業をしたいと思います。あなたは内容をすべからくよく読んで、銀行さんが求めている経営改善計画書を作るにあたっての前提条件となる情報を全て集めてください。あと、議事録。(後略)
資料の筆頭に、議事録を名指ししています。実際、このときAIが読み込んだ一次資料の先頭は、決算書4期分と並んで、あの会議の生の文字起こし・全文でした。
私はこういう「元の記録」を、原典と呼んでいます。要約でもまとめでもなく、話したことがそのまま残っている大元のことです。
決算書を読ませる、は誰でも思いつきます。この案件で効いたのは、原典を当たれ、のほうでした。なぜ効いたのか。次の二つの章が、その中身です。
決算書に載っていない数字が、原典から出てきた
決算書は、会社全体の合計しか持っていません。売上高、仕入れ、粗利。全部、足し合わせたあとの数字です。どの商品が稼いでいて、どの商品が薄利なのか。決算書をどれだけ眺めても、書いてありません。
それが、録音の中にはありました。社長が話していたからです。主力の卸は利幅が薄く、価格も上げにくいこと。これから始めるコーヒー豆は、卸と小売で利幅がまるで違うこと。会話の中に出てきた数字が、計画書の「いまの姿」の欄に、そのまま流れ込みました。

もうひとつ、こちらのほうが大事かもしれません。
後編の記事で、計画書の5つの箱のうち**「めざす姿」と「やること」の2つはAIに埋められない**、と書きました。決算書から線が引けない、経営者の頭の中にしかない箱です。
ただ、埋める材料が何も無かったわけではありません。社長がその頭の中を口にした瞬間が、録音に残っていました。
今ももう一つなんかができれば一番いいなっていう柱が欲しかったっていうのもあって。元々そのコーヒーの焙煎の部分も元々やりかけてた事業だったんで、もう一回どうにかできればいいなという話で
この言葉が、計画書の「めざす姿」の下敷きになりました。AIに埋められない箱を埋めるのは経営者です。でも、経営者が一度口にした言葉なら、議事録が覚えています。1か月経っても、こちらが思い出せなくても、そこにあります。
無かったことも、証明してくれる
計画の方針を固める段階で、私が自分の頭から足した前提が3つあります。業務用の卸は市場の大きさが決まっていて、急には増やせないこと。新しい卸先は、急に増える性質のものではないこと。そして、ネット販売はやらないこと。
3つ目については、この原稿を書きながら確かめました。ひと月前の会議で、ネット販売の話は出たんだったか。正直、記憶が曖昧でした。それで約4万字の文字起こしを検索してみると——0件。ネット販売という言葉は、あの2時間のどこにも出てきていません。つまりこれは録音には無くて、何度も通ってこの商売を見てきた私の頭の中にだけあった情報だ、と確定できました。
記録は、有ったことだけでなく、無かったことの証明もしてくれます。「言った・言わない」にも、「言ったっけ?」にも、答えが出ます。

二回目の会議は、30分足らずで終わった
ひと月あまり経って、二回目の会議がありました。銀行の担当の方と社長と私の3人で、作りかけの計画書を挟んで数字を詰める会です。録音は25分38秒。
短い会議です。でも、中身はよく動きました。新しい借入の額。既存の借入の返し方の組み替え。売上の見通しの下方修正。数字がその場で何度も書き換わり、私は会議のその場で、計算式の入ったExcelを直しています。
この日いちばん残っている言葉は、社長のものではありません。銀行の担当の方のものです。
計画立てたのにって話になる。
新しい借入の額で、本当に足りるのか。足りなければすぐに追加のお金の話になって、「計画を立てたのに」という話になる——数字を甘いまま出させないための、貸す側からの言葉です。ちなみに、こういう「誰が言ったか」は、記憶の中では簡単に混ざります。録音は混ざりません。
会議が終わって、録音をAIに渡して、議事録ができたのが午後1時14分。その19分後に、もう1枚の文書ができています。「来週やること」の段取り書です。中身は、こういう粒度です。
借入の明細が届いたら、このシートのB5に金額を、C5に金利を、D5に……
Excelのセル番地の単位で、どこに何を入れるかが書いてある。全部で258行。会議で決まった変更を、来週手を動かす日に迷わないための指示書です。書いたのはAIで、材料は25分の録音だけです。

しかもこの段取り書は、会議の結論を鵜呑みにしていませんでした。独立に検算して、**「この組み替えだと、借入の総額は減るのではなく増える」**と注意を入れています。会議の中で口にされたある返済額の数字には、「議事録に出所がない」という注意書きも付きました。
二時間の会議が計画書の骨格を作り、30分の会議が数字を締めました。そして、どちらの録音も、そのまま次の作業の指示書になっています。前回「議事録は仕事の材料になる」と書いたのは、抽象論ではなく、こういうことです。
録音を数えると、社長が計画書のためにテーブルについた時間は、合わせて2時間半足らずでした。会議を何度も重ねなくても、一度話した言葉が残っていて、AIがそこから働く。相手の時間を使わずに済むことも、議事録の効き目のひとつです。
始めるのに、在庫は要らない
最後に、ひとつ白状します。
前回「半年分81件」と書きました。あれは、AIに渡して名札を付けてある分だけの数です。今回この記事を書くにあたって棚卸しをしたら、外付けの置き場から回収してきた名札待ちが約70件、文字起こしサービスの中で眠ったままのものが100本以上。合わせると、実際は200本を超えていました。全部はまだ帳簿に入っていません。それでも、入れた分から順に、この記事のように働き始めています。
そして今回の計画書で働いたのは、突き詰めれば録音1本の言葉でした。2時間の会議の議事録が計画書の土台になり、30分の会議の議事録が翌週の指示書になった。それだけの話です。
始めるのに在庫は要りません。今日の会議の録音、1本からで大丈夫です。
次のブログでは、こうして貯めた議事録や、AIとのやりとりの記録そのものを「原典」として扱い、その原典を、後工程のAIにどう使わせるかという話をします。合言葉は、これです。
要約は、未来の問いを知らない時点での圧縮である。

※第1弾で予告した「帳簿の作り方」——名札のルールの決め方や、文字起こしを自動で取り込む仕組み——は、工程を分解した記事として準備しています。先に、帳簿が働いている場面からお見せすることにしました。作り方を急ぎで知りたい方は、コメントでそう教えてください。順番を入れ替えます。
※登場する事業者は、守秘のため業種を変えています。数字は丸めていますが、やりとりと工程は実物です。
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