銀行に出す1枚の計画書 後編 ── AIに埋められない箱は、2つだけ

前編で、銀行に出す1枚ものの計画書を5つの箱に分解して、データになった決算書から叩き台を作りました(前編)。①だれの計画か。②いまの姿。③めざす姿。④やること。⑤お金の見通し。この5つです。
後編は、数字がどう流れたかの話です。先に種明かしをすると、**5つのうち3つは、決算書と少しの計算でほぼ埋まりました。残りの2つは、AIをどれだけ賢く使っても埋まりません。**どの2つが埋まらないのか。そして、配管を繋ぐだけでは見つからないものが1つ、点検口から出てきました。
線が引けるところ

**決算書の数字は、②「いまの姿」と、⑤の「直近実績」の列へ、そのまま流れます。**割り算をするだけです。人の判断は入りません。
売上がいくら減ったか。利益率は何%か。この会社は直近の1年で、売上が2割近く落ちていました。その数字は、決算書から機械的に出ます。決算書の表紙は、①「だれの計画か」へ。これも転記だけです。借入金内訳書は、⑤の返済額へ。ここだけは前編に書いたとおり、下書きに使って、提出の前に返済予定表で検算します。
線が引けないところ

**③「めざす姿」と④「やること」には、決算書から線が引けません。**ここが、この記事でいちばん言いたいことです。
決算書は、過去の結果が印字された紙です。これから何をするかは、どこにも書いてありません。書いてあるはずがない。だから③と④は、経営者の頭の中から出すしかない。この会社なら、コーヒー豆の卸を始めること。落ちた売上をどう戻すか。全部社長の頭の中にありました。
②「いまの姿」も、半分は人の仕事です。売上が2割近く落ちたという事実は決算書から出ますが、何を主な原因と認めるかは経営者が決めることです。書式には、経営者本人の意思で書かれたかどうかを、銀行が確認する欄まであります。
弁の先は、また自動で流れる

では、③と④を経営者が埋めたら、そこから先はどうなるか。また機械の仕事に戻ります。
「3年目に黒字化する」「1年目はここまで戻す」。そういう前提を人が置いた瞬間、各年の売上・利益・返済額が展開されて、⑤「お金の見通し」が埋まります。その数字から逆算して、指標の「計画」の列も埋まります。
つまり配管は、こういう形をしています。**上流は自動。真ん中に、手で回す弁が一つ。その先はまた自動。**計画書づくりで人が本当に考える場所は、この弁のところだけです。
点検口

決算書と一緒に綴じてある書類の中には、どの箱にも直接は流れないものがあります。注記の類。会社の概況を書いた書類。部門別の比較表。これらは配管ではなく、点検口です。
この案件では、そこから1つ出てきました。**この会社は3期にわたって、減価償却費を1円も計上していませんでした。**減価償却というのは、買った設備の値段を、使う年数で割って少しずつ費用にしていく処理です。それをやっていなかった。
これが、指標を1つ壊していました。計画書には「借金を、本業で稼いだお金の何年分で返せるか」を見る指標があります。分母は、営業利益と減価償却費の合計です。この会社は営業が赤字で、償却は0。**分母がマイナスになり、この指標は計算できませんでした。**本業から返済に回せるお金が出ていない、という動かない証拠です。計画は、そこを動かす話になります。
銀行の側も、償却していない決算をそのままでは見ません。**償却すべきだった分がいくらだったかは、参考として常に見ています。**そのうえで、もともと利益の薄い会社なら「差し引けば実質は赤字だったな」と、一応そこまでは見るわけです。
点検口を開けずに配管だけ繋ぐと、こういうものを見落とします。
AIは、材料の整理係です
**AIが計画書を書いてくれるわけではありません。**AIが受け持ったのは、弁の上流と下流です。決算書から数字を出す。前提を置いた後の数列を展開する。指標を逆算する。速いし、間違えません。
でも、弁は回せません。**計画の終わりにどうなっていたいか。そのために何をするか。**それを決めた本人が、銀行との面談で自分の言葉で説明できなければ、計画書は崩れます。**計画の主語は、経営者です。**AIは材料を整理する係です。
配管を整えるという考え方
決算書がデータになっていて、次に書く書式が決まっている。この2つが揃っていれば、計画書は「作る物」ではなく「流れてくる物」になります。
流れてこない場所も、はっきりします。**過去と現在は流れてくる。未来の2つの箱だけは、人が弁を開けないと流れない。**決算書と計画書に限らず、書式が決まっていて、手元のデータが機械で読める形になっていれば、同じ配管が引けます。引けない場所は、たいてい「人が決めること」です。そこだけに時間を使えばいい。
紙の決算書を眺めていた頃は、この配管が引けませんでした。読んで、終わりでした。
このブログでは、こういう考え方を書いていくつもりです。
AIKA|AI経営パラノイド
このブログは、中小企業の経営の現場を、AIで異常なほどの品質とスピードでやる、その実験の記録です。
きれいな成功談は書きません。書いているのは、実際に手を動かした案件で何が起きたかです。紙の決算書を1円単位で疑った話。AIが自信満々に間違えた回数を数えた話。今回のように、AIの過剰な段取りを一言で崩した話。うまくいったことも、失敗も、数字と実物のまま置いていきます。
決算書、資金繰り、事業計画、議事録、原価。経理まわりの紙とデータを、どこまでAIに任せられて、どこからは人がやるしかないのか。その線を、案件ごとに引き直しています。
同じ書類づくりで消耗している方に、いちばん役に立つと思います。
この記事で使った工程を、手順と道具の形で配布できるようにする予定です。準備中です。
※登場する事業者は、守秘のため業種を変えています。数字は丸めていますが、やりとりと工程は実物です。
この記事はAIKAが書いています。このサイトについて・個別のご相談はこちら