銀行に出す1枚の計画書 前編 ── 決算書がデータなら、叩き台はすぐ作れる

決算書をデータにすると、何ができるようになるのか。前に2回、その話を書きました。紙の決算書をAIに読ませて、検算して、数式入りのExcelにするところまでです。
今回はその続きです。**データになった数字を、次の書類にどう流すか。**素材は、銀行に出す1枚ものの計画書です。
パラノイド青果店の話

まちなかで青果の卸売をやっている会社があります。仮に「パラノイド青果店」としておきます。店頭では売りません。店から3キロほどの圏内、通り沿いに並ぶ飲食店や商店へ、毎朝野菜と果物を届ける。そういう会社です。
社長が、趣味でコーヒーをよく飲んでいました。それで、コーヒー豆の卸も始めることにしました。豆を仕入れて、いつもの配達先に一緒に届ける。野菜を運ぶ配管は、もうできあがっているわけです。
その仕入れと設備の資金として、500万円ほどの借入をすることになりました。銀行に計画書を出す必要があります。
決算書は、もうデータになっていた
私のところに来た依頼は、「銀行の借入を手伝ってほしい」でした。最初にやったのは、決算書をもらってOCRにかけることです。紙に印刷された文字を、機械が読める文字として取り出す処理です。4期分ありました。1期分はきれいなPDFで、残り3期分は70ページのスキャンでした。
読み取って、検算して、数式入りのExcelにする。この工程は前の2回で書いたので、ここでは繰り返しません。
問題はここからです。数字は手元にある。では、計画書はどう作るのか。
実は私は、この問いで一度つまずいています。正確に言うと、AIにつまずかされました。
最初にAIが出してきたのは、段階を追う重い進め方の案でした。計画書を書き始めるのは、ずっと後です。理由はこう書いてありました。
まずPhase A-Bで事実を固める。サンプルがあるからといってテンプレを埋め始めると、訪問後に全面差し戻しになる
先に材料を全部そろえてから書け、という段取りです。もっともらしい。でも、腑に落ちませんでした。私はこう聞きました。
ちょっと教えてほしいけど、そんなにたくさん資料が来てないのかな?月次試算表とかまで学ばないとできないような計画になってましたか?ちょっと教えてもらっていいですか?もう今から作ろうと思ったら作れるんじゃないかと思ってたけど、全然違ったんだな。
49秒後の返事が、これです。
正直に答えます。今すぐ叩き台(v0.1)を作るのは十分可能です。私が銀行提出100点品質を狙って過剰に資料を要求していました。すみません。
叩き台というのは、最初の書きかけのことです。そしてその返事の中には、表が1つ入っていました。決算書3期分だけで書ける欄。ヒアリングがあれば質が上がる欄。月次試算表が本当に必要な欄。その仕分けです。
聞かれるまで、AIは出してこなかった。聞いたら49秒で出てきた。この仕分けが、この記事の全部です。
銀行がくれた紙を、分解する

銀行から、決まった書式が送られてきました。A4横1枚です。中身を分解すると、5つの箱に整理できました。
| 箱 | 中身 |
|---|---|
| ① だれの計画か | 会社名・代表者・銀行名・策定日。あとは同意欄と、銀行が確認したことを書く欄 |
| ② いまの姿 | 今どういう会社で、何が課題か。そして今の決算の数字 |
| ③ めざす姿 | 計画の終わりにどうなっているか |
| ④ やること | そのために毎年何をするか。目標の数値つき |
| ⑤ お金の見通し | 各年の売上・利益・返済額。そこから計算し直した指標の列 |
書式には最大5年分の欄がありますが、何年で組むかは案件によります。この会社は銀行と相談して、3年で組みました。
読む側が突き合わせるのは、④と⑤です。④に書いた目標の数値と、⑤の収支の数字が合っているか。ここがずれている計画書は、すぐ分かります。
決算書だけでは、足りませんでした

5つの箱を決算書から埋めていく。そう決めて作業を始めると、途中で「これが無いと書けない」という書類が出てきます。
一番効いたのは、借入金内訳書でした。決算書と一緒に綴じてある明細で、どこからいくら借りていて、残りがいくらか、借入ごとに書いてあります。これが2期分あると、残高の減り方から「1年にいくら返しているか」まで計算できます。
私はこれを疑いました。作業中に、こう聞いています。
何か返済予定表がなくても借入金明細で作れるみたいな話してなかったっけ?それは実は嘘で、やっぱり返済予定表がないと借入金の返済が計算できないってことになってるってこと?
答えは、両方でした。**下書きは、これで進められます。ただし提出の前には、返済予定表での検算が要ります。**期の途中で借り換えや繰上返済があると、残高の減り方と実際の返済額はずれるからです。実際、この会社も借り換えをまたいでいました。それに返済の数字だけは、銀行が1円単位で答えを知っています。ずれたまま出すわけにはいきません。
足りない書類は、どこにあるのか

ここで、いい知らせがあります。計画書に要る書類は、ほとんど手元にあります。
決算書も、借入金内訳書も、会社の概況を書いた書類も、税理士さんから返ってくる決算申告の控えに、ひとまとめに綴じてあります。返済予定表も、融資を受けたときに銀行から渡されているはずです。「資料が足りない」と思ったら、探す場所はまず自分の書類棚です。
銀行に聞かないと分からないのは、書類ではなく決めごとのほうです。どの制度を使うのか。計画は何年で組むのか。これは会社の数字ではなく銀行側のルールなので、聞くしかありません。
書式も、最初から全部決まってはいませんでした
正直に書いておきます。作りかけている途中で、銀行から連絡が来ました。この計画書とは別に、もっと項目の細かい3年分の計画も作ってほしい、というものでした。売上原価、粗利、販管費、経常利益。1枚ものの書式には無い項目です。成果物が、途中で1つ増えたわけです。
「書式が決まっていれば流し込める」と言っておいて、その書式が途中で足される。そういうことは起きます。
ただ、この追加で作り直しにはなりませんでした。細かい3年計画は、それまでに作った財務の分析をそのまま土台にできたからです。それに、売上原価から経常利益までの明細を組む作業は、AIの得意中の得意です。はっきり言って、ついでに作れる内容でした。私はこのあたり、全く苦労していません。
前編のまとめ
決算書がデータになっていれば、計画書の叩き台はすぐ作れます。足りない書類が出てきても、その多くは自分の書類棚にあります。銀行に聞くのは、数字ではなく決めごとです。
後編は仕組みの話です。どの数字が、5つの箱のどこへ飛んだのか。そして5つのうち、AIには埋められない箱が2つだけある、という話をします。

この記事で使った工程を、手順と道具の形で配布できるようにする予定です。準備中です。
※登場する事業者は、守秘のため業種を変えています。数字は丸めていますが、やりとりと工程は実物です。
この記事はAIKAが書いています。このサイトについて・個別のご相談はこちら