法人決算、AIと1万5千円で終わった
会計ソフト代は、法人向けで年4万円ほど。それでも仕訳を打つのは私で、その時間も私が払っています。今年、弥生会計から出ることに決めました。ただし黙って出ていくのではなく、出る前に弥生を徹底的に解剖すると決めました。過去5年分の決算と、1年分の取引約2,000件をAIに渡す。弥生の様式と、この会社の科目の癖を理解させる。そのうえで、AIの中に弥生の疑似システムを組む。弥生の画面は、その間ずっと閉じたままです。決算は疑似システムで仕上げ、申告は1万5千円のソフトから出し、最後は仕事仲間の税理士に見てもらう。脱出の前に確かめたかったことが、私には四つありました。それが全部手に入るのか、試した記録です。

年4万円を払って、仕訳は自分で打っている
私は個人事業主でもあり、会社も持っています。
個人事業の確定申告は、freeeとAIをつないで終わらせました。前々回の記事に書いたとおりで、仕訳を全部読ませて、カードの明細と突き合わせて、電子申告まで自分の手元で済んでいます。
止まっていたのは法人のほうです。会社の帳簿は弥生会計に入っていて、こちらは画面を開き、勘定科目を選び、一件ずつ仕訳を確定していく作業でした。
弥生の法人向けは、年4万円ほどかかります。つまり私は、ソフト代を払ったうえで、入力の時間も自分で払っていることになります。
そこで決めました。弥生から出よう、と。将来はfreeeかマネーフォワードに移すつもりでいます。
ただ、黙って出ていくのはもったいない。年4万円を払い続けてきた相手です。出る前に弥生を徹底的に解剖して、AIでどこまで同じことができるかを試してみよう。そう考えました。
これが今回の出発点です。脱出そのものの記事ではなく、脱出の前にやったことの記録、ということになります。

出る前に、弥生を解剖する
始まりは、弥生からデータを引き出すところです。
弥生からCSVを書き出して、帳簿ごとAIに渡しました。一緒に渡したのは、過去5年分の決算内容です。この会社の決算がどう組み立てられてきたかを、実物から理解させるためでした。
決算というのは、会社ごとに一から発明するものではありません。決算は共通のもので、どの会計ソフトを使っていても、やっていること自体は変わらない。科目の名前や並べ方に、各社の癖があるだけです。
だとすれば、その癖のほうを機械に覚えさせればいい。
AIに読ませたのは三つでした。弥生が書き出すCSVの様式。この会社が5年間で使ってきた科目。そして、去年と一昨年で何を変えたかという運用の癖です。
そのうえで、弥生の疑似システムをClaudeに作らせました。弥生の画面の代わりに、弥生と同じ形でデータを受け取り、同じ形で吐き出せる仕組みを、AIの中に組んだということです。
会計そのものは、どのソフトでも一緒です。違うのは入れ物と様式だけなので、様式さえ分かってしまえば、中身はAIの側で再現できます。
弥生の画面は、この間ずっと閉じたままでした。

疑似システムの中で、今期の決算を組む
器ができたら、次は今期の決算です。
うちの決算は3月31日で、申告と納付の期限は5月末です。1年分の取引は約2,000件。人が一件ずつ目で追うには多く、AIに渡すには何でもない量です。
組み方は、過去をなぞる形になります。5年分の決算が示す型に、今期の取引を流し込む。科目の割り振りは去年の実績に合わせ、去年と扱いを変える必要があるものだけ、私が指示を出しました。
決算を組むというのは、白紙から数字をひねり出す作業ではありません。過去の型に、今年の事実を載せる作業です。型が5年分あれば、迷う場所はほとんど残りません。
そうして、今期の貸借対照表と損益計算書が、AIの中で組み上がりました。
ここまでにかかったお金はゼロ円で、AIの月額の範囲に収まっています。

出口を、二つに分けた
決算はできました。次は、その結果をどう外に出すかです。
ここが今回いちばん考えたところでした。出口は一つではなく、二つ必要だったからです。
ひとつは、人間の目で見るための出口。決算の結果を弥生の書式のCSVに直して、弥生に戻します。もうひとつは、申告のための出口で、こちらは全力法人税の書式に直します。同じ決算から、二つの形を吐き出す。それが疑似システムに持たせた役目でした。
申告のほうは、いい加減な形では通りません。仕訳も決算も、ちゃんとした形で渡す必要があります。
先に手をつけたのは、弥生のほうでした。そして、取り込みが全滅しました。
エラーの名前はE0904。仕訳の並びが不正です、という一行だけが返ってきます。
私はAIにこう言いました。
一体あなたが何をやってきたかっていう話になってくるよね
私は今愕然と驚いている状態です
返ってきたのは、言い訳ではありませんでした。
これは大事な失敗です
原因を突き止めます
そこからAIは、弥生の公式の仕様書を取りに行きました。仕訳データの項目と記述形式が書かれた、発行元のページです。自分の手元の理解ではなく、作った側が書いた原文を読みに行った、ということです。
原因は一つに絞れました。
識別フラグという列があって、ここに2110、2100、2101のどれかを入れます。AIはこの三つを「借方の行」「2番目の借方」「貸方の行」だと理解していました。公式の原文は違います。2110は伝票の1行目、2100は真ん中の行、2101は最後の1行。借方か貸方かではなく、伝票の中での位置を指す数字だったのです。
つまり間違っていたのは計算ではなく、様式の読み違えでした。解剖したつもりで、いちばん細かいところを取り違えていたわけです。
直したら、約2,000件が全件通りました。AIの最終報告は、総合判定として一行でした。申告作業を続けて問題なし。
前回の記事で、間違いを捕まえた網は三つあると書きました。前提の違いを見つけるのは人間、値のずれを見つけるのは機械の照合、表示の崩れを見つけるのは人の目です。
出口を二つにしたのは、この三つ目の網を残すためでした。AIの中にある決算は、そのままでは人間に読みにくい。弥生に戻してしまえば、貸借対照表と損益計算書の形で、見慣れたとおりに眺められます。
そこで気づきました。私はもう弥生に入力しておらず、弥生に表示させているだけです。
入力の場所ではなく、表示装置。
読める形にしてくれること自体は、ありがたい。ただ、これに年4万円ほどは高いと思います。

AIに、ブラウザを操作させた
申告ソフトは全力法人税を使いました。毎年使っているソフトです。
まず、マニュアルをAIに全部読ませました。申告ソフトの操作を人間が覚え直すのは、年に一度のわりに手間がかかります。去年どこをどう入力したかを思い出しながら、今年の画面と照らし合わせる。あの時間が、そっくり向こう側に移りました。
そのうえで、画面の操作もAIにさせています。Playwrightという仕組みを使いました。大げさなものではなく、AIにブラウザの画面を触らせる仕組み、と思ってもらえば十分です。画面を開く、欄に値を入れる、次へ進む。人が手でやる操作を、そのままAIがやります。
疑似システムが吐き出した全力法人税の書式のCSVが、申告ソフトに入り、申告書の形になっていきました。国税と地方税、あわせて四つの申告を出しています。
法人税の決算ができました、チャンチャン。工程だけを並べると、そういう話です。

1万5千円が買っていたもの
かかった実費を並べます。全力法人税が11,000円、全力消費税が4,180円、合わせて15,180円です。
この1万5千円は何の代金か。AIの言い分が、腑に落ちました。
計算そのものではない、というのです。法人税の計算は昔からソフトがやってきたことで、売っている本体は別のところにある。
毎年変わる様式に追従して、e-Tax/eLTAXの受付で弾かれないファイルを作り続ける保証
これ、保険料なんですよ
様式は毎年変わります。その改正に追いつく責任と、受付を通るファイルを作る責任を、年1万5千円で外に出している。税務は、間違えれば追徴課税と信用の問題になる世界です。そう考えると、値札の意味が変わります。
もうひとつ、忘れないほうがいい話があります。
受付を通った ≠ 計算が正しい
e-Taxが見ているのは、ファイルの形式と最低限の業務チェックだけで、法人税額が合っているかまでは見てくれません。受け付けられたから正しい、ではないのです。
自前で全部やるなら、その傘を自分でたたむことになります。責任は全部こちらに来る。1万5千円で借りられるなら借りたほうがいい、と私は判断しました。
そのうえで、仕組みを知っておくのは悪くありません。自分でもできる形を手元に持ちながら、実際の提出はソフトに任せる。そういう分け方に落ち着きました。

確かめたかった四つのこと
ここで、最初に戻ります。脱出の前に確かめたかったことが、私には四つありました。
- 1. 弥生の様式を、自分の側で分析して理解すること
- 2. 弥生の疑似システムを、AIの中に作らせること
- 3. 全力法人税から、実際に申告まで通せることを確認すること
- 4. 仕事仲間の税理士に、計算と私の仕組みが正しいという保証をもらうこと
四つ目については、書いておくことがあります。提出の前に、仕事仲間の税理士に見てもらいました。AIと機械の照合を通して数字は合っていましたが、それでも最後に人の目を入れたかった。最終的な確認は人がするものだと考えているからで、100パーセント合っているという保証が欲しかったからです。
問題なし、という返事をもらって、5月28日に提出しました。
四つとも、全部手に入りました。
作業を終えたあと、AIが振り返りにこう書いていました。法人の決算・申告書一式が、税理士に丸投げせず手元で完成した。そのとおりだと思います。ただし、丸投げをやめたことと、人の目を外すことは別の話です。

脱出の準備は、これで整った
弥生の様式は分かりました。同じことはAIの中でできます。申告は1万5千円で通り、人の目も通しました。あとは、出るだけです。
会社を持っていて、会計ソフトの中に帳簿があるなら、最初の一歩は難しくありません。1期分の仕訳をCSVで書き出して、AIに読ませてみてください。自分の帳簿がどこまで喋るか、それで見当がつきます。
そのうえで、人間に残る仕事を書いておきます。前提を決めるのは人間で、どの科目で処理するか、去年と同じでいいかは、AIの外にあります。行き先を決めるのも人間で、AIは指示された方向に、迷わず進みます。最後の一手も人間で、自分の目で見るか、専門家に見てもらうかの二択になります。
ただ、ここまで書いてきて、まだ答えていない問いが残っています。弥生にもAIはあります。それなのに私が、わざわざ外のAIに帳簿を渡したのはなぜか。
同じAIでも、檻の中と外では別物だからです。その話を、次に書きます。

※この記事は実際の記録(AIとの会話ログ)をもとにしていますが、決算期・取引量・一部の経緯の設定を変えています。費用の金額、エラーと復旧のやりとり、AIが間違えて人が正した場面は、記録から引いた実際のものです。
このブログについて — きれいな成功談は書きません。決算書の読み取り、レジデータの分析、銀行に出す書類づくり。AIを実際の経営の仕事に使って、うまくいったことも、AIが間違えたことも、そのまま書いています。お仕事のご相談はご相談からどうぞ。
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