法人税の申告書は、1万5千円とAIで出せる
前回、法人の決算がAIと1万5千円で終わったと書きました。
今回はそのやり方です。ただ、手順の前に地図がいります。
クラウド会計を使っていても、法人税の申告書はそこでは作れません。
帳簿と決算書まではソフトの仕事で、申告書はまた別のソフトの仕事です。
この最後の区間をどう渡るかで道は何本かに分かれ、値段は10倍以上ちがってきます。
私が使ったのは、いちばん安い道でした。
会計ソフトが何であっても通れて、続けて使うなら年1万5千円ほどで済む道です。
会社を持っていて、決算が終わったあとで毎年困っている人に向けて書きます。
地図を先に広げて、それから歩き方を書きます。
画面の細かい操作手順と、エンジニア向けの話は出てきません。

クラウド会計は、決算書までしか作らない
会計ソフトの画面には、決算書を出すボタンがあります。貸借対照表と損益計算書は、そこから出ます。
止まるのは、その次です。
法人税の申告書は、決算書とは別の書類です。所得を計算する別表、地方税の申告書、勘定科目の内訳書、事業概況説明書。これらは会計ソフトの守備範囲の外にあります。

各社が、自分でそう書いています。
マネーフォワードは公式のヘルプに、製品内での法人税の申告には対応しておらず、決算書の出力には対応している、と書いています。弥生も、クラウド会計ソフト「弥生会計Next」では法人税申告書自体の作成はできない、と明記しています。デスクトップ版も、決算書と消費税の申告書までです。
例外はfreeeです。ただし、無料でも一体でもありません。
「freee申告」という別売りの製品があって、freee会計を使っていることが前提になります。値段は年29,800円+税から。対象は資本金1億円以下の会社です。freeeを使っている人にとっての追加オプションであって、他社のユーザーが単体で買えるものではありません。
ここで、混ざりやすいニュースが一つあります。
2025年8月に、freeeが「freee申告」へ手動入力モードを2026年夏までに載せる、と発表しました。これは会計事務所向けの製品の話です。経営者が自分で申告するための版とは、別物です。
freeeが申告までできるようになったらしい、という話を聞いたら、どちらの話かを一度確かめたほうがいいと思います。

申告書を出す道は、五本ある
値段と前提を並べます。金額は、2026年8月時点で公表されている目安です。
- 税理士にスポットで頼む。 決算申告だけを頼む形で、相場は15〜25万円ほどです。
- freee会計にfreee申告を足す。 年29,800円+税からの追加になります。
- 全力法人税を使う。 会計ソフトを問いません。続けて使うなら年15,180円です。
- 楽々法人税を使う。 同じ型の独立系で、初年度無料をうたっています。
- e-Taxに直接打ち込む。 ソフト代はかかりません。そのかわり、別表を一枚ずつ自分で埋めることになります。
この並びで見ると、位置が分かります。
freee会計を使っている会社なら、freee申告を足す道が素直です。会計と申告が同じ中でつながります。税理士に頼むのが間違いということもありません。5話に書いたとおり、私は税理士を外すことを勧めていません。
全力法人税が効くのは、freee会計を使っていない会社です。弥生でも、マネーフォワードでも、会計王でも、Excelで記帳していてもかまいません。会計ソフトを問わずに、安く申告まで行ける。ここが全力法人税の位置です。
私は弥生を使っていました。だから、この位置にいました。

1万5千円の中身と、使えない会社
全力法人税でできることを並べます。法人税と地方税の申告書、消費税の申告書、電子申告用のデータ、勘定科目内訳書、事業概況説明書。申告に必要な書類は、ひととおり出ます。

ただし、どの会社でも使えるわけではありません。対象外になるのは、資本金1億円超の会社、学校法人・社会福祉法人・協同組合・宗教法人など、それに電気ガス供給業と保険業です。自分がここに入っていないかは、申し込む前に見ておくところになります。
値段は、使うのは無料で、出力するときに払う形です。
2026年8月時点の看板を、そのまま書きます。全力法人税は初年度が19,620円+税で、税込21,582円。翌年度以降は10,000円+税で、税込11,000円。消費税の申告に使う全力消費税が、1事業年度あたり3,800円+税で、税込4,180円。
初年度は合わせて約2.6万円。翌年からは年15,180円になります。
前回書いた1万5千円は、この続けて使うときの額です。私は毎年使っているので、その年に払ったのは15,180円でした。これから始める人が最初に払うのは、2.6万円のほうです。
値段は変わるので、申し込む前に公式で確かめてください。
前回書いたことを、一行だけ繰り返します。この代金は計算の代金ではありません。毎年変わる様式に追いつき続けることと、受付で弾かれないファイルを作ることの代金です。


帳簿の渡し方は、三系統
決算の数字を申告ソフトに入れる方法は、三つあります。
- 純正のインポートを使う。 弥生会計、弥生会計オンライン、freee、マネーフォワード、会計王、全力会計。この6種には、専用の取込口が用意されています。
- 汎用のCSVに整える。 全力会計形式という共通の書式に列を並べ替えて渡します。どの会計ソフトを使っていても通る道です。
- 手で入力する。 決算書の数字を画面に打ち、固定資産を個別に登録します。
たいていの会社は、純正インポートで足ります。使っている会計ソフトが6種の中にあれば、帳簿を書き出して、その口に読ませるだけです。

私は汎用CSVを使いました。AIの中で決算を組んでいたので、どこかのソフトがそのまま吐いたファイルではなかったからです。特殊な事情なので、真似しなくてかまいません。
取込の画面だけ、一つ書いておきます。タブは勘定科目、仕訳、固定資産の3つに分かれています。開始残高には独立したタブがなく、仕訳データの中に含めて入れます。ここが一番迷うところでした。

画面の細かい手順は、これ以上書きません。ソフトの画面は変わりますし、その説明は本来、公式のマニュアルの仕事です。そして、マニュアルを読むのは人間でなくてよくなりました。

マニュアルは、AIに読ませればいい
申告ソフトを覚えるのは、年に1回のために覚え直す作業です。去年どこに何を入れたかを思い出しながら、今年の画面と照らし合わせる。この時間が、まるごと向こう側に移りました。
まず、マニュアルをAIに全部読ませます。公式のヘルプは、たいていウェブで公開されています。人が要点だけ拾って読むより、機械が全部読んだほうが速くて漏れがありません。
次に、書式の変換をAIにさせます。帳簿のCSVを、申告ソフトが受け取る形に並べ替える作業です。列の名前も、使える文字も、ソフトごとに決まりがあります。
ここに、つまずきやすい所があります。
去年もらったCSVの見本を見せて、これと同じ形にして、と頼むと外します。出来上がったファイルの見た目は、入力の決まりを教えてくれないからです。
私は、この頼み方で転びました。弥生に決算を戻そうとして、約2,000件が全部はねられました。識別フラグという列の意味を、借方か貸方かの区別だと思い込んでいたのです。公式の仕様書には、伝票の中で何行目かを表す数字だと書いてありました。見本から推測した理解と、書いてある決まりが、違っていたということです。
AIに公式の仕様書を読ませたら、原因は一つに絞れました。
頼み方は、見本を渡すのではなく、仕様書のページを渡す。ここは変えたほうがいいです。

AIが、申告ソフトの画面を運転する
三つ目は、画面の操作そのものです。
申告ソフトはブラウザの中で動きます。だからAIにブラウザを触らせる仕組みを渡せば、画面の操作も任せられます。Playwrightという名前が付いていますが、中身は難しくありません。画面を開く、メニューをたどる、欄に値を入れる、次へ進む。人が手でやることを、そのままAIがやります。
今年の決算で、実際にやらせました。
AIが全力法人税のログインページを開きます。そこで、一度止まりました。
ログイン画面が出ました。メールアドレスは途中まで入っています。ここからはお願いします。パスワードは私が触りません
パスワードはAIに入力させない。これは先に決めていたルールです。そのあと、頼んでもいない一行が足されました。
いま画面にパスワードが平文で出ています。画面共有や録画をしているなら、その点だけご注意ください

私がログインすると、AIが画面の中を歩き始めます。決算期のプルダウンを開いて、三期分が残っているのを確かめる。今期を選ぶ。インポートの画面に入る。マウスを乗せてもサブメニューが取れないと分かると、画面を撮って自分で見直す。

そのあいだ、私は何も押していません。実況を読んでいるだけです。人が一つずつ確かめていく手順が、そのまま文章になって流れていきます。
ここまでで、十分に便利だと思っていました。手が止まったのは、その次です。
重要な発見がありました。今期の決算期に、もう決算書が入っています。しかも、私たちが組んだ決算とはまったく別物です
AIが比較の表を出してきました。今期の欄に入っていたのは、売上141万円、当期は92万円の黒字。私たちがAIの中で組んだ決算とは、符号から合いません。
この売上141万・黒字92万のデータ、心当たりはありますか

私は覚えのある感触を探して、こう返しました。
それ、本当に今期ですか。年度締めをした記憶がないんです。その数字はうちのものじゃないと思う
AIは、素直に受けました。
鋭いご指摘です。今期が選ばれているのは画面で見ました。ただ、そのラベルの中身が本当に今期かどうかは、別の話です。三つの期を一つずつ切り替えて、調べ直します
しばらくして、報告が返ってきました。前期と前々期の中身は、手元の台帳と1円まで一致していた。今期に入っていた売上141万・黒字92万は、実態と違う。決め手は、この決算に役員報酬が1年分まるごと入っていないことでした。
正体は、以前これができるかどうかを試したときの練習用のデータでした。消し忘れたまま、今期の欄に残っていたのです。

ここが、この記事でいちばん書いておきたいところです。
AIは、画面を正確に読みます。読んだとおりに正確に報告します。ただ、その報告が会社の事実と合っているかは、別の問いです。今期の欄に入っている数字を、今期の決算だと読んだ。画面としては正しく、事実としては違っていました。
違和感を出せたのは、年度締めをしていない、という私の記憶でした。帳簿にも画面にも書いていないことです。
そのあとの動きも書いておきます。データを入れ替える前に、古いデータを消すボタンの場所を下見させました。AIは三つのタブのどこに何があるかを報告したうえで、押しませんと自分で言いました。押すのは、中身を確かめた私です。

ここまで読んで、そこまで触らせるのは怖い、と思った人もいると思います。形は二つあって、どちらでも成立します。
一つは、いま書いた形です。操作までAIにさせて、人間は実況を読み、要所で止める。もう一つは、AIをナビにして、ボタンは人間が押す形です。どのメニューのどこを押すかを手順に書かせて、人間はそれを見ながら押していく。覚え直す時間が消える点では、こちらでも同じです。
お金と提出が動く画面は自分の手で押したい、という分け方も、普通だと思います。
そして、どちらの形でも人間に残る仕事は変わりません。前提を決めるのは人間です。この支出をどの科目にするか、去年と扱いを変えるか。おかしいと思う役も人間です。最後に出すと決めるのも、人間です。

検算は、全期間でやる
間違いを捕まえる網は三つある、と前に書きました。前提の違いを見つけるのは人間、値のずれを見つけるのは機械の照合、表示の崩れを見つけるのは人の目です。
さっきの謎データは、一つ目の網に引っかかった例です。値としては筋が通っていて、機械の照合では止まりません。止めたのは、年度締めをしていないという前提のほうでした。
機械に任せられる照合は、思ったより多くあります。借方の合計と貸方の合計が一致するか。資産が負債と純資産の合計と一致するか。繰越欠損金が前期から当期へつながっているか。出力した電子申告のファイルの中の金額が、期待した数字と合っているか。どれも、人が電卓を叩く必要はありません。
人間の側でやることも書いておきます。
私は通帳との突合で失敗しました。一部の期間だけを見て、漏れはゼロだと判定していたのです。あとで全期間を取り直したら、売上が3件、269,500円の計上漏れが出ました。
狭めた範囲の検算は、狭めた範囲の中でしか正しくありません。手間がかかっても、期首から期末まで通しでやったほうがいいです。
もう一つ。受付を通ったことは、計算が正しいことではありません。e-Taxが見ているのは、ファイルの形式と最低限のチェックだけです。法人税額が合っているかまでは、見てくれません。


税理士を通さない、ということ
ここまでは、税理士を通さずに申告書を出す方法でした。
税理士を通さないというのは、傘を自分でたたむことです。
計算が間違っていても、誰も止めてくれません。受付は通ります。1万5千円で買えるのは様式への追従までで、中身の正しさまでは買えません。
心配なら、提出の前にスポットで税理士に見てもらう手があります。私はそうしました。税理士についての考えは、5話に書いたとおりです。
自分で出せることと、自分で出すべきかどうかは、別の問いです。ただ、出せると分かってから選ぶのと、無理だと思ったまま選ぶのとでは、選び方が変わると思います。
シリーズは、もう少し続きます。

※この記事の実録部分は、実際の記録(AIとの会話ログ)を基礎資料にした再構成です。決算期・取引量・場面のやりとりの一部は、読みやすさのために整えています。各サービスの価格・機能・対象条件は、2026年8月時点で各社の公式ページから確認したものです。
このブログについて — きれいな成功談は書きません。決算書の読み取り、レジデータの分析、銀行に出す書類づくり。AIを実際の経営の仕事に使って、うまくいったことも、AIが間違えたことも、そのまま書いています。お仕事のご相談はご相談からどうぞ。
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