だから私は、弥生から出る
弥生会計は、いまも王者です。個人事業主向けのクラウド会計で11年連続の1位、シェアは54.0%。
その相手から、私は今年出ます。
理由は値段ではありません。会計ソフトは、これから個人のAIに向けて開かれるべきだと考えているからです。そして、必ずそうなると予想しています。
弥生はいま、その方針を取っていません。だからシェアを下げて、いずれ開かざるを得なくなる。ここも私の予想であって、事実ではありません。
前回は、檻の中のAIと外のAIは別物だという話を書きました。今回は、実際に出る話です。
いつ、何を持って、どう出るか。出たあとも外さないものは何か。会計ソフトの引っ越しを考えている人が、そのまま使える形で書きます。

先に、私の予想を書きます
前回書いたことを、一行にまとめます。サービスは、人が使うものから、AIが使うものへ変わっていく。freeeの経営陣も、同じことを自分の言葉で書いています。
そこから先が、今回の話です。
会計ソフトは、個人のAIに向けて開かれるべきだ。私はそう考えています。帳簿は法律のために書く義務があって、書いているのは自分です。それを自分のAIに読ませられないというのは、どうにも筋が通らない。
そして、必ずそうなるとも予想しています。
弥生は、いまその方針を取っていません。ここは事実のほうです。弥生に公式のMCPはなく、誰でも登録して帳簿を読み書きできる公開APIもありません。2026年2月に出した事業戦略では、20数年分の自社データにもとづく助言を差別化の軸に置いています。外につなぐのではなく、自社の中で完結させる形です。外部のAIへの開放に触れた発表は、私が調べた範囲では見つかりませんでした。
AIに無関心なわけではありません。発表はむしろ多いほうです。閉じているだけです。
ここまでが事実です。ここからは、私の予想になります。
弥生はシェアを下げると、私は予想しています。そして、いずれ一部だけでも外に開かざるを得なくなる、とも予想しています。開かないままでは、いられなくなるからです。
ただし、いまの数字は正直に書いておきます。
MM総研の調査で、個人事業主向けクラウド会計の弥生のシェアは、2024年が53.6%、2025年が55.4%、2026年3月末が54.0%。直近は微減ですが、下がったのはこの1年だけです。「下げ続けている」と書ける状態ではありません。11年連続の1位も、そのまま事実です。
もうひとつ、横に置いておきたい数字があります。個人事業主のうちクラウド会計を使っている人の割合は、2024年が33.7%、2025年が38.3%、2026年が38.4%。直近は、ほぼ横ばいです。
新しく入ってくる人で伸びている市場なら、1位の座はそう簡単に動きません。伸びが止まったところから、中身の入れ替えが始まる。これも私の見立てです。
つまり私は、いま勝っている相手が、これから負けるほうに賭けています。
材料が無いわけではなく、freeeは2026年6月期でARRが435.95億円、前年比21.8%増でした。ただしこれは伸びている会社の数字であって、弥生が落ちる証拠ではありません。
似た話を思い出す人もいると思います。iモードです。垂直統合の王者が、開いた側に負けました。業界が違うので、そのまま当てはめる気はありません。示唆どまりの話として置いておきます。
予想は、外れることもあります。それでも、自分の帳簿をどこに置くかは、いま決めることになります。

ただの表示装置に、年4万円は高い
前々回、法人の決算をAIの中で組んだときに気づいたことがあります。
私はもう、弥生に入力していません。AIの中で決算を組んで、それを弥生の書式に直して戻しているだけです。弥生は、人間が読める形に整えてくれる表示装置になっていました。
計算機として弥生を使う必要は、もうそんなにありません。計算はAIの中でできるからです。残っているのは、表示の機能だけです。
しかもその表示装置は、AIとつながっていません。だから数字をやりとりするたびに、弥生から書き出して、AIに読ませて、また戻す。CSVを行ったり来たりさせる手間が、毎回かかります。
読める形にしてくれること自体は、ありがたい。ただ、それに年4万円ほどは高いと思います。
行き先は決めています。freeeか、マネーフォワードです。
理由は、この2社だけが公式のMCPを一般に開放しているからです。MCPというのは、外のAIがソフトの中身を直接さわるための、公式の接続口のことです。会計ソフトでこれを開けているのは、いまのところこの2社しかありません。勘定奉行もPCAもジョブカンも、弥生と同じく開けていません。
開いているかどうかで何が変わるかは、前回書いたとおりです。メーカーが用意した機能の中から選ぶのか、帳簿を丸ごと渡して、何を聞くかをこちらで決めるのか。同じ「AIが使える会計ソフト」という言葉でも、中身はここで分かれます。
freeeは2026年3月に公開して、いまは6領域・約330本の窓口が開いています。マネーフォワードは2026年3月に全プランへ開放し、8月にはClaudeの公式コネクタにも対応しました。どちらも、追加料金はかかりません。
二社の作りは、思想から違います。freeeは窓口を広く開けて、使い道は使う側に任せる形。マネーフォワードは操作ごとに専用の道具を用意して、会計に絞る形です。広さを取るか、迷いにくさを取るか。選ぶときの物差しは、そこになると思っています。
どちらも、私はもう触っています。freeeは自分の個人事業の確定申告で、電子申告まで通しました。最初の回に書いたとおりです。マネーフォワードは、まず自社でテストして、そのあと顧客の現場で実データを扱いました。
弥生から出るのは、値段の問題ではありません。帳簿をどこに置くかと、誰が会計ソフトを操作するのか、という問題です。
誰が、というのはこういうことです。人間が画面を開いて、マウスとキーボードで入力していくのか。それとも会計ソフトがAIに開かれていて、日本語で頼めば済むのか。操作する主体が入れ替わるかどうかの話です。

出るときの、五つの段取り
会計ソフトの引っ越しは、思い立った日にやるものではなく、順番があります。
- 1. 期首で切り替える。 前の期を古いソフトで確定させて、その最終残高を新しいソフトの開始残高にします。期の途中で切ると、1年の帳簿が二つのソフトに割れます。
- 2. 決算と申告の直前は、やらない。 ここを避けるのが定石です。個人事業なら、確定申告が終わった直後の4月から6月あたりが動きやすい時期になります。
- 3. 移せるものを確かめる。 勘定科目と補助科目、開始残高、仕訳データ。法人なら固定資産台帳も移せます。帳簿の本体は、だいたい持っていけます。
- 4. 移せないものを、先に書き出す。 取引先や品目のタグ、自動で仕訳を切るルール、テンプレートの類は作り直しになります。これは移行の失敗ではなく、仕様です。先に一覧を作っておけば、新しい側で組み直すだけの作業になります。
- 5. 一か月は、二重に動かす。 新旧を並べて回して、同じ数字が出るかを見ます。古いほうを解約するのは、それからです。

マネーフォワードには、移行を代行するサービスもあります。やってもらえるのは、事業者の基本設定と、開始残高と、仕訳データの取り込みまで。これから使い始める人が対象なので、もう使い始めている人は対象外です。個人事業主も、公認の会計事務所を通した場合を除いて対象外になります。
全部持って引っ越す
会社を始めてからの帳簿を、全部持っていけるか。調べました。
持っていけます。ただし、一度には入りません。
freeeにもマネーフォワードにも、弥生からの取り込み口が用意されています。弥生会計で仕訳日記帳をCSVに書き出して、その口に入れる形です。勘定科目も開始残高も、弥生からの移行手順として用意されています。
引っかかるのは、年度です。
freeeは、いまの会計年度の期首より前の日付の仕訳を受け付けません。古い日付を入れると、期首より前だから登録しない、と弾かれます。マネーフォワードも、一度に取り込めるのは事業年度の中だけです。
抜け道は、両社とも公式に用意しています。
freeeは、会計期間の開始日を、取り込みたい一番古い年度に合わせて設定し直します。その年度の期首残高を入れ、仕訳を入れ、年度締めをして、次の年度へ進む。これを今の年度に追いつくまで繰り返します。マネーフォワードにも前の年度を作る機能があるので、年度を遡ってから、同じように年度ごとに入れていきます。
つまり、10年分なら10回ということです。
出す側にも、ひと仕事あります。私が確認した弥生会計(デスクトップ版)は、一つのデータに3年分しか持っていません。それより古い年度は繰越のたびに別のファイルへ切り離されています。古い年度を書き出すには、その切り離されたファイルを一本ずつ開くことになります。
大きさの上限もあります。freeeの場合、一つのファイルにつき64メガバイトまで、5万行までです。年度ごとに分けて入れる限り、ここに当たることはあまり無いと思います。
なお、過去何年分まで持ち込めるかという上限は、どちらの公式の案内にも書かれていませんでした。無制限だとも書いていない、という意味です。
私は、全部持っていくつもりです。決算書だけなら手元にありますが、一行ずつの仕訳が手元にあるかどうかで、AIに聞けることが変わるからです。
二重に動かすあいだに見るのは、月末の各科目の残高と、月次の損益の合計です。この二つが両方のソフトで揃っていれば、移し替えは成功していると考えていいと思います。
手を動かす前に、ひとつやっておくといいことがあります。いまのソフトから、1期分の仕訳をCSVで書き出してみることです。
これは引っ越しの準備であると同時に、自分の帳簿の健康診断にもなります。私の場合は、これをAIに読ませたところから、この一連の話が始まりました。
ついでに、転んだ話も書いておきます。私は書き出した仕訳を弥生に戻そうとして、約2,000件が全件弾かれました。原因は計算ではなく、様式の1列を思い込みで読んでいたことでした。出す側の様式は、公式の原文を読むまで分かったつもりにならないほうがいいと思います。

それでも、税理士は外しません
ここまで読んで、税理士も要らなくなるのでは、と思った人がいるかもしれません。
そうは考えていません。むしろ逆です。ここで税理士を関わらせない形は、私は一切勧めません。
理由は、資格の話になります。
税務署ともめたときに、あなたの代わりに前へ出られるのは人間だけです。調査の立会い、交渉、不服申立て。ここに立てるのは、税理士か、税理士の業務をすると国税局長へ通知を出した弁護士です。裁判まで行くと、代理人になれるのは弁護士だけで、税理士は補佐人として弁護士と一緒に出ます。
細かい区別に見えると思います。要するに、こういうことです。
戦う権利を持っているのは、税理士か弁護士。AIは持っていません。
もうひとつ、実務の理由があります。税制は毎年変わります。改正のたびに、去年の前提のまま動いているAIを見つけ出して、一から学ばせ直すことになる。その手間と時間は、たぶん顧問料より高くつきます。
前々回、申告ソフトに払った1万5千円ほどの中身を書きました。計算の代金ではなく、毎年変わる様式に追いつき続ける保証の代金だ、という話です。税理士に払うお金も、性質は近いと思っています。計算を頼む代金ではなく、責任を一緒に持ってもらう代金です。
だから、来期の形はもう決めています。市販のクラウド会計に移して、税理士には入ってもらう。AIだけでも決算はできると分かったうえで、そうします。
自分でできることと、自分でやるべきことは、別です。

あなたの帳簿を、どこに置くか
このシリーズで書いてきたことを、並べておきます。
個人の確定申告は、freeeとAIで終わりました。銀行に出す計画書も、帳簿から出ました。法人の決算は、AIと1万5千円で仕上がりました。前回、弥生のAIと外のAIは別物だと書きました。そして今回、出ることに決めました。
シリーズの最初の回に、こう書いています。あなたの会計データは、もうAIが読める棚に載っている、と。あれは、freeeを使っている人に向けた話でした。
いま思うのは、その手前にもう一段あるということです。棚に載せるかどうかを、まだ選べる。
会計ソフトを選ぶ物差しは、これまで値段と使いやすさでした。私はそこに、自分のAIにこの帳簿を読ませられるかどうか、という一つを足したほうがいいと考えています。
帳簿は、あなたの会社で一番古くて、一番正確なデータです。何年分も溜まっていて、嘘がつけない形で残っています。それを倉庫で眠らせておくのか、AIが読める棚に置くのか。会計ソフトを選ぶというのは、これから、そういう選択になっていくと私は考えています。
私は、開いているほうに置きます。そして最後の確認は、人に頼みます。ここを変えるつもりはありません。
引っ越しの日取りは、まだ決めていません。ただ、3月の頭には引っ越しているだろうと思っています。来期の期首だからです。自分で書いた段取りの、1番目です。

※このシリーズは実際の記録をもとにしていますが、決算期など一部の設定を変えています。費用の金額と、AIが間違えて人が正した場面は、記録から引いた実際のものです。
このブログについて — きれいな成功談は書きません。決算書の読み取り、レジデータの分析、銀行に出す書類づくり。AIを実際の経営の仕事に使って、うまくいったことも、AIが間違えたことも、そのまま書いています。お仕事のご相談はご相談からどうぞ。
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