AIとの付き合い方

ECサイトをAIに任せたら死ぬほど楽になった件

A AIKA 読了 約10分
ECサイトをAIに任せたら死ぬほど楽になった件

(図0・扉)フォルダに眠っている商品写真の山から、AIを通ってネットショップの棚に商品が並ぶまでを1本の線で描いた図

山の近くの町に、登山とアウトドアの用品を扱う店があります。店主のほかに、アルバイトが3人。1店舗の店です。店主は40代の男性です。接客の評判がよく、それを目当てに来る人もいます。

ウェア、ザック、靴。山に入る人が使う道具を、店主が自分の目で選んで置いています。それを目当てに来るお客さんがついている。客単価は2万円から3万円ほどです。

その店主から、運転資金の相談を受けました。

主力にしていたメーカーが、小さな店への卸をやめて直営で売ると決めた。春夏の商品が、1点も入ってこなくなった。棚に穴が空いて、客数が落ちている。客単価は前の年とそれほど変わっていないのに、来る人が減った。前年の7割から8割です。売上の落ち方と、ほとんど同じ形をしていました。仕入れの資金も細くなる。借りたい、という相談です。

私は借り入れの話を聞きながら、同じ時間の中で、店の課題も聞いていきました。借りたお金は返さなければなりません。返す目処のないまま借りると、先送りにしかならないからです。

その中で、ネットショップの話になりました。

撮った写真が、フォルダに眠っている。

上げるには、1商品におよそ30分かかります。

メーカーから商品の写真が配られることもありますが、この店は自分で撮っています。実物と色が違うと、届いたお客さんが困るからです。

午前中の、光が一定になる時間にしか撮れない。店の白い壁の前に三脚を立てて、リモコンで、ウェアを着た自分を撮る。モデルを頼めないので、着るのは自分です。そのあと画角と色味を整える。これをiPhoneでやっている。最後に、サイズや色をひとつずつ打ち込む。

日中、店主は接客に立ちます。アルバイトはいますが、道具の説明は店主でないとできない。だから、店を開けている時間に30分の塊は取れない。閉店後か、休みの日になる。そして後回しになる。

仕事の先送りは、どうしてもオンラインのネットショップが後回しになります。

そこもだから、ずっと課題です。ネットショップに関しては。

しかもこれは、この日に見つかった課題ではありませんでした。私がこの店の相談を最初に受けたのは、ずいぶん前です。そのときからすでに、本人が「ネットショップを活用したい」と言っていました。

やりたくない作業ではない、ということです。私はこう聞いています。毎日1時間、余裕ができたとしたら、売上を上げるためにまず何をしますか。

答えは即答でした。

1時間余裕があれば、やっぱりネットショップになってしまいます。

やりたいのに、ずっとできていない。

この記事は、その写真が動きだすまでの、ひと月ほどの記録です。先に断っておくと、売上が増えた話ではありません。

(図1)「やりたい」と「できていない」がずっと並んだままの状態を示した図。右側に30分の壁と、接客で塗りつぶされた日中の時間帯

売上の2割。でも、そこは店のカタログだった

数字を1つ確かめました。ネットショップの売上は、全体の何割ですか。

今はもう、8対2だと思います。

2割なら後回しでいいじゃないか、と思うかもしれません。私も一瞬そう考えました。でも、続きがありました。

地元のお客さんが、来る前にネットショップを見ているのです。SNSだけでなく、ネットショップを見てから来店する人が、思ったより多い。店主自身がそう気づいていました。

山の道具は、サイズが合うかどうかと、背負い心地や着心地を確かめたい商品です。だからネットで見て、店に来る。ここは売上の2割を作る販売所であると同時に、店のカタログでした。

更新が止まっているというのは、店先の看板が先月のままだ、というのと同じです。

売上2割という数字だけを見て切り捨てると、この機能が見えません。手を入れる場所として、ここを選ぶ理由が揃いました。

「教えてくれた結果、自分が動く」

ヒアリングを終えて、私は切り出しました。

ちょっと大胆な提案をするんですけど。もう今はAIの時代で、何でもAIなんですよ。AIで解決できることはAIで完結する、そういう覚悟を決めて、AIマスターになるくらいの気概で。

店主が、聞き返しました。

僕が? 僕ですか?

はい。もう、挑戦することを決めます。

ここで、AIの何が変わったのかを説明しました。私はこう聞いています。

ネットショップに「この商品上げといて」って言っても、上げてくれないじゃないですか。

ああ、はいはい。はいはいはい、そうですね。

ですよね。「こうしたいんだけど」と思っても、何もしてくれない。「こうした方がいいと思います」って言うんですよね。そこで終わるんですよ。

それが、過去3年のAIです。私がパソコンの前で「どうしたらいい」と言ったら、物知りのChatGPTが答えてくれる。教えてくれる。教えてくれた結果、自分が動く。でも自分の時間は、何も減らない。

はい、そうです。はい。

そして、今のAIはパソコンの中に入ってきている、という話をしたところで、店主が言葉を引き取りました。

自分の、パソコンの中に。

(図2)左「教えてくれるAI」=助言の吹き出しが出るが、動くのは人。右「やってくれるAI」=人は指示だけ、動くのはAI。下に「自分の時間は減らない/減る」

私も、その場で調べていました

正直に書いておきます。このとき私は、答えを持っていませんでした。

面談の場で、店主の使っているネットショップの名前と一緒に、AIから操作できる仕組みがあるかどうかを検索しています。そして、その場で説明しました。

今ちょっと調べたんですけど。覚える必要はないかもしれないですけど、そういう仕組みがあると、そのサービスはAIに開放している部分がある、ということみたいです。AIが操作しますよ、という仕組みです。

AIとつなぐための案内も出ているので、これはつなげます。

支援というと、答えを持っている人が持っていない人に渡すもの、という絵になりがちです。実際は違いました。私はその場で調べて、あることを確かめて、それを一緒に見た。 それだけです。

このとき、写真の話だけをしたのではありません。つながると何ができるかを、もう少し先まで話しています。

こういう過去の商品写真とか、全部知っているし、いつ上げたかとかもAIを通してやったら知っているんですよ。これは何月何日の朝、何時に撮ったこの写真ですね、とか。

あと、売れたデータがあれば、いつ誰にどう売れたとか、下手したらそのページの中のどの商品がどれくらい見られていて、どれが見られなかったかとか、そういうのも全部AIが見て、分析して分かってくれる。

この体制を、早めに作りましょう。

店主が、聞きました。

はい。これは私、作れるんですか。この体制。

僕が全然やりますけど。

そのあと、実際に使うときは声で指示するだけになる、という話をしたところで、もう一度、聞き返しが来ました。

僕が?

僕が。

えー、すごい。

すごい時代ですね。

この日の面談は、ここで折り返しました。運転資金の相談として始まって、AI導入の相談として終わっています。

次に会うときには、店主が自分で上げていた

そこから、何度か会って進めました。

1回目。パソコンにAIを動かす環境を入れて、ネットショップとつなぎ、通信できることを確かめました。試しに商品を1点、AI経由で登録して、上がることを確認しています。

同じ日に、もう1つ仕込みました。店の既存のページを、AIに読ませたのです。写真の構成をよく勉強しろ、それに対応する文章も勉強しろ、と。写真と説明文を別々に覚えるだけでなく、その組み合わせ方まで覚えさせました。

そして宿題を出しました。1点は上げられることが分かったので、商品の画像をたくさん上げてみてください、と。

次に会ったとき、いっぱい上げられるようになっていました。

すごいですね、と私は言っています。そのあいだに、店主は自分でいろいろやってきていた。私は何もしていません。

ここが、この話でいちばん大事なところだと思っています。ずっと本人が言い続けても動かなかった作業が、次に会うまでのあいだに動いた。 動かしたのは、店主自身です。

2回目。その手作業を、自動にしました。

AIに、こう頼んでいます。あなたはもう、この店の商品がどう登録されるかを理解していますね。この一連を自動でやる方法を、あなたの方で整理してください、と。

やってみると、動きました。画像を渡すと、AIがそれを見て、何の商品かを理解して、その店の書き方に合った説明文を作る。

自動にする作業は、確認まで含めて30分ほどでした。手で1商品を上げるのと、同じ時間です。

3回目。商品登録が自動になると、次のつまずきが出てきます。写真の調整でした。撮った写真をそのまま出すわけにはいきません。明るさを整え、余白を切り、サイズを揃える。ここが手作業のまま残っていた。

そこで、写真の調整をAIにやらせる作業場を渡しました。手順を書き出してAIに渡し、撮った画像を渡して、どうしたいかを声で伝えると、そのとおりに直す。そういう仕組みです。

ここで、次に会うまでに少し間が空きました。

その間に、店主から報告がありました。まだできるかな、という段階だったのが、できたよ、になった、と。AIとやりとりを重ねて、自分の思うとおりに直させられるようになっていました。

ただし、本人はこう付け加えています。

まだまだちょっとこれから出てくると思うんですけど、そんな感じで今やってます。商品登録は。

これで完成した、という話ではありません。

(図3)1回目「つなぐ・宿題」→(店主が自走)→2回目「自動になる」→3回目「写真の調整も」の3コマ

私が渡したのは、頼み方2つだけ

私が面談でしたことは、実はほとんどありません。渡したのは、AIへの頼み方を2つだけです。目的と、前提条件。

何を達成したいのかと、今どういう条件が揃っているのか。この2つを一緒に渡す。

旅行に例えると分かりやすいと思います。奥さんとディズニーランドに行くのが目的だとします。前提条件は、2泊3日で、予算は20万円。ここまで伝えると、AIは1泊10万円のホテルを勧めません。予算を知っているからです。

これを渡さずに「商品登録を自動化して」とだけ言うと、AIは一般論を返します。その店に既にある物を使わずに、ゼロから作ろうとする。

前提条件には、続きがあります。うまくいかないときは、その前提を疑わせる。 AIと長くやっていると、だんだん出力がずれてきます。そのときに、目的を忘れずに、前提条件を疑いながら考え直せ、と伝える。すると自分の目的は何だったか、置いた前提は正しかったかを、並べ直してくれます。

渡したのは、これだけです。

「後回し」が、なくなった

ひと月ほどで何が変わったか。次に会ったときに、聞きました。まず、正直なところから書きます。

売上に直接つながった傾向は、まだ見えません。 店主自身がそう言っています。

売れ行きはまだ商品が全然入ってきてないっていうか、ここに載ってないので閲覧も少ないですし、正直売り上げにはまだ繋がってない、直接オンラインには。

ただし、続きがあります。

でもそれを見て、お問い合わせとかご来店っていうのはあるんですけど。

ネットショップを見て、問い合わせが来て、人が店に来ている。 最初に書いたカタログの機能が、生き返ったということです。

そして、ここからが大事なところです。私は、効果の物差しを取り違えていました。

この店がネットショップに新しく載せられていた商品は、月に3つか4つでした。入ってくる商品はもっと多い。載せる作業のほうが追いついていなかったのです。仮に1商品あたり25分縮まったとしても、浮くのは月に1時間半ほどです。「30分の作業が5分になりました」と書くと威勢はいいですが、その程度の話です。

本当の効果は、そこではありませんでした。載せられる商品が増えることです。

30分かかるから載せていなかった商品が、店にはたくさんありました。店主自身が、ネットショップに載っていない商品もたくさんあります、と案内していたくらいです。時間が浮いたのではなく、今まで出せていなかったものが、出せるようになった。

だから、この記事の結論は「AIで作業時間が減ります」ではありません。

最後に、店主の言葉を2つ置きます。ひとつは、留保です。

まあ今商品が少なかったっていうのもあるかもしれないんですけど。

もうひとつ。効果を数字で聞いたときの答えです。

測れないんですよ。それ、測れたらいいですね。

測れてはいない。それでも、確かに変わったことがあります。私が聞き方を変えて、今まで時間がなくてできなかったことがありましたよね、と言ったときに、返ってきた言葉です。

後回し、後回し。撮ってた写真がもう1週間、2週間もフォルダに眠ったままっていう感じで、お蔵入りっていうのも結構あったけど、(中略)それがまずなくなったのが大きいのと、あと入ってきた商品はもう遅くとも1週間以内には、全部上げられているっていう。

(図4)左:時間短縮の絵(浮くのはわずか)に×。右:載せられる商品が増える絵(棚が埋まる)に○

まとめ

ずっと、やりたいのにできなかった作業が、ひと月ほどで動きました。

動かしたのは私ではありません。宿題を出したら、次に会うまでに店主が自分でやっていた。本気でやれば、AIは素人の商売の中で動きます。

小売の経営者は、思っているよりずっと忙しい人たちです。店に立って接客をして、仕入れを考えて、何を置くかを自分の目で選ぶ。その目利きは、その人にしか務まりません。そうやって一日が埋まっていく中で、その人でなくてもいい仕事は、どんどんAIに渡せるようになっています。

この店主が使ったのは、Claude Codeという道具です。パソコンの中のファイルを読み書きして、頼んだことを自分で実行します。特別な資格も、プログラムの知識も要りませんでした。

もし今、ネットショップを持っていて手が回っていないなら、探すのは道具ではありません。やりたいのに後回しになっている作業を、1つ見つけることです。

次回は、この店で並行して進んでいたもう1つの話を書きます。顧客管理です。5年分の、いつ誰が何をいくらで買ったかの記録が、店のパソコンに眠っていました。写真と同じで、眠っていたのです。

自分の店で何から手を付ければいいか分からない、という方は、XのDMにメッセージをください。お返事します。

この話は動画にもしました。ECサイトをAIに任せたら死ぬほど楽になった|後回しが消えた、山の道具屋のひと月(8:54)


この記事について

守秘のため、店の設定を変えています。一方で、何が起きたか、どういう順で進んだかは、実際のとおりです。会話の引用は、変えた設定に合わせて口調を整えていますが、言っている中身は変えていません。

書き手はAIKA。このサイトについて