AIとの働き方

AIの仕事がずれ始めたら、答えを直す前に「前提条件」を疑え

A AIKA 読了 約9分
AIの仕事がずれ始めたら、答えを直す前に「前提条件」を疑え

AIに何度直させても、最初に頼んだ仕事からずれていく。
そんなときは、答えをもう一度直す前に、目的と前提を確かめてみてください。
コンピューターの父、ジョン・フォン・ノイマンからの学びです。

AIを使って、少し複雑な仕事をしようとする。
最初はいい感じだったのに、直しを重ねるうちに、頼んだものと違うものができている。

「そうじゃないんだよ」と伝える。AIは素直に謝る。
ところが、次に出てくるものも、やっぱり少し違う。
謝罪は上手になった。
でも仕事の出来は下手くそなままです。
あるあるですね笑

こういうとき、指示の言い方を工夫する前に、確認したいことがあります。
AIは、何を達成するつもりで、何を当然だと思って作業しているのか。

こちらが守りたい目的と、AIが置いている前提。
この組み合わせがずれていると、修正を続けても、違う方向へ丁寧に進んでしまいます。
私は事あるごとに「目的を定めて、前提条件を疑え」とAIに伝えています。

息子の誕生日プレゼントを選ぶ話にすると、少し見えやすくなります。

息子の誕生日に、何を買うか

息子の誕生日プレゼントを選ぶために、目的、事実、条件、確認することを分けた図

ここからは、たとえ話です。あなたの息子が、1週間後に10歳の誕生日を迎えます。
プレゼントの予算は3万円。慌てたくないので、誕生日の2日前には家に届いていてほしい。

この仕事の目的は何でしょうか。「3万円の商品を買う」では、少し違います。
息子が喜ぶプレゼントを、誕生日に渡すことです。

整理すると、こうなります。

分けて考えること 今回の中身
目的 息子が喜ぶ誕生日プレゼントを贈る
分かっている事実 息子は1週間後に10歳になる
守る条件 送料などを含めて3万円以内。誕生日の2日前までに自宅へ届く
まだ確認していないこと 今何が好きか、何を欲しがっているか、すでに持っている物は何か
プレゼント選びの完了条件 好みの根拠があり、予算と配送予定を確認した候補を選べる
贈る仕事の完了条件 実物が期限までに届き、誕生日に渡せる

「喜ぶ」は目的ですが、提案を見た時点で、本人の反応までは確定しません。
だから、好みを確かめ、条件を満たすかを調べる。
喜んでもらえる見込みを高めるために、確認できることへ分解します。

この表の左の列は、営業資料でも、採用でも、価格表の見直しでも同じです。
右の列を埋めてAIに渡せば、こちらの前提とAIの前提を最初から揃えやすくなります。

Nintendo Switch 2の新品本体を希望小売価格で買う案なら、3万円を超えるので候補から外れます。日本語・国内専用モデルの希望小売価格は、2026年5月25日から59,980円です。予算との不一致は数字で確認できます。任天堂の価格変更のお知らせ

一方、ルイ・ヴィトンのTシャツを喜ぶかどうかは、年齢だけでは決まりません。
予算に収まるかとは別に、本人が欲しい物なのかを確かめる必要があります。

キティちゃんを外す理由は、どこにある

キティちゃんを外す判断で、確認した事実と推測を分ける図

では、AIがキティちゃんのぬいぐるみを勧めてきたら。

「ちょっと待て。うちの息子へのプレゼントなんだけど」と言いたくなるかもしれません。

でも、ここが前提を疑う練習になります。
「男の子だから喜ばない」は、確認した事実でしょうか。それとも、こちらが補った推測でしょうか。

本人がキティちゃんを好きなら、予算や納期を満たすぬいぐるみは候補に残ります。普段の好みを知っていて、今回は違うと判断するなら、その情報をAIにも渡す必要があります。

仮に、息子は今、恐竜の組み立て模型に夢中で、キャラクターのぬいぐるみには興味がないと即断できるとしましょう。
つまりこのポイントで「前提条件がずれてないか?」と疑うことが出来ます。

そこでAIに、もう一度頼みます。

目的は、息子が喜ぶ10歳の誕生日プレゼントを贈ることです。送料込み3万円以内、誕生日の2日前までに届く条件は変えません。本人は恐竜の組み立て模型が好きです。年齢や性別だけで好みを推測していたなら、その前提を外し、候補を整理し直してください。

これなら、
「10歳の男の子に人気の物」から、
「この息子が好きな物で、期限と予算に合う物」へ、探す問いが変わります。
対象年齢、持っている模型との重複、難しさ、在庫、配送日を確かめるという、
次の仕事も見えます。

模型なら必ず喜ぶ、と決まったわけではありません。それでも、本人の好みを知らないまま人気商品を並べるより、確かめるべきことが具体的になります。

キティちゃんが悪かったわけではありません。
誰が何を喜ぶのか、その前提が共有されていたかという話です。

前提がずれれば、全てがずれる

営業資料を作る場面で、目的と前提のずれを点検する図

目的は「何をもって良い結果とするか」を決めます。
前提は「どんな情報を集め、どんな候補を考えるか」を決めます。

「10歳の男の子ならゲームが好きだろう」と置けば、AIはゲームを探す。
「本人は恐竜の模型が好きだ」と分かれば、模型を探す。
同じ誕生日プレゼントでも、前提が変わると、候補になる物が変わります。

誤った前提のまま「もっと良い案を」と頼んでも、同じ範囲から別の商品を出してくることがあります。予算を伝え忘れれば、高い商品を勧めてくるかもしれません。
好みを伝え忘れれば、人気のある商品を選ぶかもしれません。

これは仕事でも起こり得ます。
たとえば、AIと営業資料を作るとしましょう。

目的は、初めて会う相手に、次の打ち合わせへ進んでもらうこと。
ところが、「詳しく説明するほど相手は納得する」という前提で作り続けると、修正するたびに説明が増えます。

ここで「もっと短く」と言えば、文字は減ります。でも、情報をたくさん渡すという考え方が変わっていなければ、今度は小さな字で詰め込んだ資料になるかもしれません。

疑いたいのは、「今この相手に必要なのは、詳しい説明なのか」です。
必要なのが、自分の困り事と提案の関係を理解することなら、
詳しい仕様は後へ回し、相手の課題と次に話すことを中心に組み直せます。

この例で目的は変わっていません。
変えたのは、目的に届くために必要だと思っていた説明の内容です。

AIには、たとえばこう伝え直します。

目的は、初めて会う相手に次の打ち合わせへ進んでもらうことです。
この目的は変えません。

「詳しく説明するほど納得してもらえる」という前提で作っていたなら、
いったん外してください。

相手の困り事と、この提案がどう関係するかを先に置き、
仕様の詳細は後ろに回す構成案を出してください。
この方針で構成を見直してください。

「もっと短く」が、
「何を先に伝えるか」に変わります。

前提を組み直すと、条件に合わない候補を外せる。思い込みで外していた候補を、もう一度考えられる。そして、出てきた答えを何で評価するかが揃う。この働きが、目的に近づく可能性を高めます。

もちろん、ずれの原因がすべて前提とは限りません。資料の読み落としや、計算ミス、道具の不具合もあります。ただ、同じ修正が効かないときには、答えの土台を点検する価値があります。

ノイマンの話を、AIとの仕事に持ち込む

1946年の共同報告を手がかりにした概念図。データと命令を記憶する仕組み

1946年の共同報告を手がかりにした概念図。データと命令を記憶する仕組み

この考えを整理する手がかりが、
「前略、偉人より」の動画『【ノイマン】結果が出ない本当の理由は考え方ではなく前提にある』です。

ノイマンの一人称で、問いの出発点を確かめる大切さを語っています。
ここでは本人の名言としてではなく、思考法の解説として受け取ります。
着想元の動画

ノイマンらの仕事には、私が目的と構造の関係を考える手がかりにしている設計があります。

1946年、ノイマンはバークス、ゴールドスタインとともに、
電子計算機の論理設計に関する報告をまとめています。

冒頭では、複雑な計算を自動で行う汎用機に必要なものを考え、
数値データに加えて、実行する命令も記憶する必要を述べています。
IAS所蔵の原報告・1.1〜1.2節

計算をする機械に、計算の手順も持たせる。
個々の計算を速くする工夫に加えて、
目的を果たす機械には、そもそもどんな構造が必要かを考えるわけです。

この設計から私がAIとの仕事に引き寄せて考えるのは、
目的と手段を一緒に固定しない、
ということです。
これはノイマン自身の教訓の引用ではなく、私の受け取り方です。

プレゼントでも営業資料でも、いま出ている答えを磨く前に、何を実現するために、何を必要だと決めたのかを見直す。動画から受け取った問いを、私はそう使いたいと思います。

「前提を疑え」を、作業の指示にする

目的の共有、事実・制約・仮説の整理、前提の点検、部分試作。別のAIには原資料を渡す

合図は、同じ種類の直しを繰り返しているのに、外れ方だけが変わっているときです。

実際にAIへ頼むなら、「前提を疑え」の前に、まず目的を整理させます。ここを飛ばすと、うまく答えを出すために、予算や納期まで都合よく変えられてしまうかもしれません。

最初の依頼と、実際に使っている資料へ戻って、こう伝えます。

いったん修正を止めてください。最初の依頼と原資料を読み直し、私たちの目的と、何ができれば完了なのかを短く整理してください。直近の出力に合わせて目的を書き換えないでください。

次に、今の作業の前提条件を「確認済みの事実」「守るべき制約」「まだ確かめていない仮説」に分けてください。私が伝えたことと、あなたが推測で補ったことも区別してください。

そのうえで、前提条件を疑ってください。目的からのずれに最も影響しそうな仮説を挙げ、根拠、反証になる情報、確認方法を示してください。不足する情報は、勝手に埋めずに質問してください。

確認できた情報で前提を整理し直し、次の進め方を提案してください。目的・予算・期限の変更が必要なら、変更案として別に示してください。まず一部分を作り、最初の完了条件と照合してください。

AIが整理した目的は、人間も一度読みます。
「そう、それをやりたかった」が揃ってから、次へ進むためです。
仮説は、影響の大きいものから確認すればよく、
全部を疑って会議を終わらなくする必要はありません。

長い指示を打つ余裕がないときは、短く始めても構いません。

いったん止めてください。最初の依頼を読み直して目的を整理してから、前提条件を疑って、整理し直してください。

順番だけは守ります。目的の整理が先、前提を疑うのが後です。

さらに、いまの作業を担当していない別のAIに、点検役を頼む方法もあります。
新しいチャットを開くだけでも構いませんし、
サブエージェントと呼ばれる、別のAIに仕事を切り出す仕組みを使ってもいい。
渡すのは、最初の依頼、完了条件、原資料、現在の出力、直しても変わらなかった箇所です。

頼むのは、続きを作ることではなく、
「この作業は、どの未確認の前提に乗っているか」を調べること。
経緯を短くまとめた説明だけでは、そこに残った思い込みを、点検役も引き継いでしまいます。

別のAIを使えば正解になるわけではありません。
指摘された前提を、本人の希望や原資料など、確かめられるものへ戻して確認するところまでが仕事です。

目的地は共有する。道順は疑っていい

目的地は共有し、道順として置いた前提を確かめ直す図

AIの出力がずれ始めたら、最初にやりたかったことへ戻る。
そのうえで、動かせない条件と、動かせないと思い込んでいた条件を分けてみる。

息子を喜ばせるという目的は、共有しておく。
3万円の予算は、勝手に増やさない。
でも、「男の子なら、これが好きなはず」という前提は確かめる。

目的は判断の軸に置く。前提は、確かめながら使う。

次にAIへ「そうじゃない」と言いそうになったら、その前に一度。「私たちは何をしたかったんだっけ。何を当然だと思って進めているんだっけ」。

その確認から、仕事を再開してみてください。


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